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翌日、無事に朝練も終わりいつもの様に教室に入ると自然とみょうじを探している自分に驚く。いや、あいつに傘を返すんだから当たり前だ。

そう自分に言い聞かせていると友達と楽しそうに話をしているみょうじを見付けるとその瞬間、みょうじが小さくくしゃみをした。

…あいつ、風邪引かないでねとか言ってたクセに自分が引いてどうする。



「ちょっとなまえ、風邪?」

「あはは〜違う違う」

「あんた…まさか傘忘れて昨日濡れて帰ったとかないよね?」

「ははっ」

「あんた家遠いのになにやってんのよ!連絡したら迎え行ってあげたのに」

「そんな大袈裟な」



…いや、ちょっと待て。
みょうじの家が遠いってどういう事だ。それになんで俺は、こんな盗み聞きみたいな事をしている。

とりあえず、自分の席に着いてさっきの会話を思い出す。昨日、みょうじは家が近いから別に濡れて帰っても大丈夫だと俺に言った。だが、さっきの話によればみょうじの家は遠いらしい。

…そこまでして俺に気を使う必要があるか?確かに、変な噂を流されるのは不快だが…昨日の場合は仕方ないだろうに。


―――
――――
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その後、特になにもなく放課後になった。そして帰りの準備をしたり部活に向かう者の中でボーッと椅子に座ったまま動く気配がないみょうじの元に向かう。



「みょうじ」

「ん?あ、日吉くん。どうしたの?」

「傘、悪かったな」

「あぁ、あげるって言ったのに。律儀だなぁ」

「今日も行くのか?」

「えっ、うん。他の部活が終わるちょっと前くらいに行くけど」

「そうか」



…風邪を引いてるのに泳ぎには行くんだな。そんな事を思いながらみょうじに青い傘を渡すと、周りがなにやら騒がしくなった気がしたが気にせず部活に向かった。

相変わらず、ギャラリーがキャーキャーとうるさくて嫌になる。これはいつになっても慣れないな。

でも今日は不思議といつもより気にせず部活に集中出来た。



「なんや日吉、今日はヤケに調子良さげやん」

「別に普通です」

「そういえば、朝も機嫌良さそうだったよな!」

「ほーう?なんや、いい事でもあったんか?」

「別にないですけど」

「でも今日は舌打ち少ねぇじゃん。いつもギャラリーに向かってしてるのに」

「つまりギャラリーん中に気になる子でもおるんか?」



ハァ、面倒臭い。

訳のわからない勘繰りを始める忍足さんと向日さんを無視して、俺は残りのメニューを始めた。





※勘繰る部員
(なぁ、鳳なんか知らねぇの?)
(えっ…なにがですか?)
(日吉が機嫌いい理由や)
(俺、日吉とクラス違いますし)
(でも急過ぎね?今日の朝からだろ?)
(…つまり、昨日の帰りやな)
(そういえば、傘取りに戻りましたね)
(その時になんかあったって事か!)
(せやけど、噂とか流れてへんしな)
(ただ単に調子が良いだけなんじゃないですか?)
(まぁ、確かに日吉ならそれも有り得るんだよなぁ)
(お前等、若が睨んでるからもうやめろって…)

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