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…殴った拳が痛い。
手加減なんかしてへんし、する気もなかったから当たり前や。

せやけど、それ以上に死んだように気を失っとるみょうじに胸が痛い。

みょうじを組み敷いとった奴等を手加減なしに殴り飛ばして、みょうじを抱き起こしたまではよかった。

せやけど、その瞬間みょうじが激しく暴れたかと思ったらやめてっ…父さんって…虚ろな目から涙流しながら許してって俺に謝り始めて、大丈夫や…言うて抱き締めるとやっと俺と認識したんかなんなのかそのままフッとみょうじは気を失った。

そんで騒ぎに駆け付けたオサムちゃんがみょうじと俺を見るなり、部室に行っとれ言われてみょうじを抱き抱えて部室に向かったっちゅー訳や。

……なんでか知らんけど、先輩等もおるし。あぁ…なんや俺の後付いて来てたんやっけ…もうどうでもええけど。



「…財前、その子はあかん」

「…なんなんスか。なんも知らんくせにみょうじの事悪く言うんやめてや」

「…知っとる。その子が親にDVされてたんも精神不安定なんも…自傷しとんのもODしとんのも全部知っとる!」

「別に俺等かてその子が悪いなんて言うてへん。せやけどな、そない不安定でボロボロな子をお前はずっと支えられるんか言うとるんや」

「…今は、ええかもしれん。せやけど、一生支える覚悟ないんやったらこの子に近付くんはあかん。中途半端な優しさで近付いちゃあかん子やねん」



…あぁ、そういう事やったんか。

まぁ、謙也さん家は医者やしみょうじの事を知っててもおかしくない。それを白石部長に話したんもわかる。

ゆっくりと立ち上がり、辛そうな顔をしてうつ向いとる謙也さんに近付くと白石部長が俺の腕を掴む。

謙也は悪くないやろと言わんばかりの白石部長にイラッとしつつ、パシッと白石部長の手を振り払う。



「先輩等は、どんだけ俺の事バカにしとるんスか」

「なに言うてんねん」

「んなのわかっとるに決まってるやないですか。こんな精神状態のヤツとなにも考えんで一緒におる訳ないわ」

「せやったら…」

「…一生支える覚悟なんてこいつを好きって自覚した時にしたッスわ。途中で投げ出すんやったらこいつ殺して死ぬくらいの覚悟あるわ」

「おーおー、随分と殺伐としとるなぁ。白石も謙也も財前が心配なんはわかるけどな、泣いとる後輩に厳し過ぎるんちゃうか」



急に部室に入って来たオサムちゃんが俺の頭をわしゃわしゃと豪快に撫でるが、正直それどころやない。

なんで、みんなみょうじをひとりにさせたがるん。なんで厄介者扱いするん。

…どうしてみょうじばっかりこんな扱いされなあかんの。


みょうじは、確かに精神的にかなり不安定やけどちゃんと相手の気持ちを理解出来る子やのに。


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