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▼ はじめて人を

頬は温かかった。
(いつもならすきま風かなにかで末端は冷たくなる。目が覚めるのもそのせいなのだが、今日に限っては温かかった。温かさにぼんやりと、まだ包まれていたいと思う。温かさに擦り寄ると大好きな匂いがした。ゆっくりとした鼓動を感じた。)
目が覚めても髪を崩す指は変わっていなかった。安心したのは心音が、ただただゆっくりと聞こえてくることだった。
帰ってきた男は何も言わず、ひしと腕を回した。獲物が床に転がるのも構わずに。衝突音は男の悲鳴だった。けれどなんだか言い訳じみた仕草だったので抜け出そうと努力した。背後の革靴の汚れは嫌という程見てきた色、男にとっては初めて見るであろう色をしていた。私は、無理矢理拘束から逃れ、自分が一番嫌いな自分になりきって、後悔してるのと聞いた。私という支えをなくした腕は頼りなさげにさまよい、力をなくした。
俺はお前が嫌いな人間になっちまうのかな、と返ってきた。顔をそらさないでよ。
この組織の中で最も純粋に生きていた男だ。とうとう、折れてしまう。
とっくに覚悟なんてできてたんじゃないの。こっち側に来ることがどういう意味か理解もせずにいたわけでもないでしょうに。
とっくに折れていた私は何と言って男を傷つけようかと、思いつくだけの罵詈雑言を唇にのせた。もちろん私が、進む道を指さすことも出来る。しかし身の振り方を全て人に指し示されるのは駄目だ。殺人の答えは自分で見つけなければいけない。
そう当たり散らしてやりたい。
役に立たない唇は震えるだけ震えている。
全ての不幸を背負い、あらぬ方向を向いていた顔がようやく正面を向いた。
再び顔は見えなくなった。熱い水分が綿生地に吸われる。
逃げたくても、逃げられなかった。

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