小説AG短編 | ナノ


▼ 直径手のひら(銀時)

赤らんだ顔は夢うつつをそのまま表している。
机の上にはスーパーでよく見かけるチューハイ、たった3%のアルコールで熟睡してしまうその体は俺が思っているより疲れているのかもしれない。3%て、ほぼジュースじゃねぇか。
机に突っ伏したままでは寝苦しかろうと抱きかかえてベッドに運ぶ。抱きかかえた時の振動くらいでは目覚める素振りもない。くったりと力が抜けて寝こける彼女に布団を掛ける。
俺はベッドに腰掛けて寝顔をながめることにした。疲労と酔いで潰れた女をどうこうする趣味はない。
寝顔は腑抜けたもんだ。仕事のことを思って眉根を寄せている姿はどうにも好きではなかった。帰宅したあとくらい、何もかも忘れて休んじまえばいいのに。
赤くなった頬に張り付く髪を退けてやる。くすぐったかったのか身じろいで俺に背を向ける形に寝返ってしまった。
2人きりの部屋で深夜の静けさは少し寂しさを煽った。
キスくらいしても許されるだろ。
寝返った背中を追いかけて、顔が見える場所におおいかぶさる。寝返った拍子に顔を隠してしまった髪をまた退ける。
形のいい鼻梁の輪郭から鎖骨までのラインが影を濃くして俺の真下にあった。
まず頬に軽く唇を押し当てた。体温は高く少し汗ばんでいる。
肩を押し、仰向けにさせる。それでもなお目を覚まさない女に苦笑いを向けながら次は唇同士をあわせた。
さっきのチューハイの匂いがする。アルコール度数は低かったから、桃味のそれの甘い匂いと女自身の匂いだけが混ざりあって興奮が腹の奥まで届くような心地だった。でも今日はこれだけだ。
顔の横に手をつく。
はたと、自分の腕とその細首が同じ視界にはいりこんだ。
ぞっとした。
周囲より少し小柄な女とはいえ、頭と胴体を繋ぐその部分は、こんなに頼りなく小さかっただろうか。
恐る、と首を触ってみる。自分の片手だけで簡単に包めてしまう。今ここで力を込めれば簡単に……。
どくどく、と脈打つのを感じて慌てて手をどけた。その鼓動はあっけなく掌握できてしまう。身に覚えのある心臓のざわつきと悪寒が手を震わせた。
「……はぁ」
寝こける彼女を少し押しやり、シングルベッドに無理矢理2人で収まる。
間近で見る彼女は口元ゆるく、白い歯を少し覗かせながら酒気混じりの寝息を立てている。
その体温は未だ高い。その温度を分けてもらいたくて、また少し身を寄せた。
ベッドは耐えきれないと言うように軋んだ。


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