▼ シャボン玉(高杉)
ふう、と頬を膨らませてシャボン液を空中へ送り出す。透明だが虹色を帯びた球は空の青色に同化して次第に見えなくなる。運良く風に乗ったシャボンを目で追うが、幾分もしないうちに宙で割れ消える。風に乗りそこねたシャボンは窓の外に出ることもできずゆっくりと床に近づき、衝突した途端に割れる。
逆流してきた液が少し口内を濡らす。思わず渋い顔になる。
彼女へ目を向けると、くすくす笑いながら桃色の管で透明の玉を生み出していた。すべてその足元へおちる。
「なに笑ってンだ」
「だって、あんまりに似合わないもんですから」
使い古した煙管は彼女に取り上げられてしまった。煙ばかり浴びるのは身体に良くないだの、何だのと。
煙管の代わりに手渡されたのは安いプラスチックで出来たシャボンの容器と管。石鹸を煮詰めたような、どろりとした匂いはどうしてか酷い懐かしさを想起させる。
「あ、きっと煙管に液を詰めてもできるんでしょうねぇ」
「やめな」
「冗談です」
彼女は笑い、思い切り吹く。こちらまで届いたシャボンは俺の髪や羽織や、足に触れて消える。
「晋助さん」
くだらないことを考えついた時の顔だ。
「私のシャボンが晋助さんに触れたら……接吻になると思いますか?」
「……なんねぇ」
シャボンを彼女へ吹き付ける。その髪に頬に、唇にぶつかる。
「してェならそう言いな」