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▼ 酔生夢死

伊万里は、この先なにが起こるのかということをまた反芻するように“思い出して”、風景の消失点を睨んでいた。これから何も変わったことが起きなければ問題なくこの戦も終わるはずだ、と眉間のしわを増やしていた。
──大きな懸念材料が一つ、突如として現れた。
三成の後ろをちょろちょろと付いて回る派手な色の背中。それに合わせてはねっ毛が飛び跳ねるのすら癇に障る。島左近は思っていたより忠実な奴だった。島左近は三成のために命を簡単に捨てられるだろうということを伊万里はすぐ勘付いた。
この間と同じように見晴らしのいい場所で布陣を眺める。ここには伊万里一人だけである。
彼は別に人付き合いが苦手だとか、煙たがられるような何かをしたとかいうわけでもないのだが、周囲とのつながりは弱い方だった。自分には吉継と三成さえいてくれればいいと思っていたし、数えるのを諦めた何度目かの人生では信じるべき人間を覚えているより、全員を疑ってかかった方が早いとすら思っていた。当然そんな思惑を知っている人間はいない。だからこんな場所でどれだけ目つきを悪くしようが見咎められることなどないのだ。この男以外には。

「伊万里! またこんなところにいるのか」
「物見だよ、ちゃんと仕事してるんだからな」
「知っているさ、お前の働きくらい。刑部もお前の前では言わないがちゃんと褒めてくれているんだぞ?」

 猫背で居座る伊万里の横に大仏のような大袈裟さで、家康は腰を落ち着けた。そして曇り一つない笑顔を与えてくる。
 この徳川家康はそもそもの気質も相まって、人と交わろうとしない伊万里を少々気にかけている。
友である三成の昔馴染みと知ってからの接近は凄まじく、いくら性質を知っているからと言っても伊万里にはだいぶん堪えた。この男といるとき、伊万里は自分の正気を疑い続ける。この男さえ裏切らなければこの平穏は永遠に続くのに。三成を狂わせるのはこの男だ。それが、おかしなことに自分がさも友人であると信じて接してくる。
甘い判断の元にここで斬りかかったこともあったが、返り討ちにされるか謀反の罪で切り殺されるかのどちらかだった。今はまだ、耐えるしかない。

「ワシは少し、お前のことが心配だ。もっと周囲と関係を持たないといつか本当に孤立してしまうんじゃないかと」
「……こうやって君がちょっかいかけてくる分には孤立なんかしてないけど」
「む、それもそうだな!」

 家康は純粋にわらう。伊万里は少し唇をゆがめて笑うそぶりをした。
ああ、いまここで終わらせられたなら。それはどんなにいい未来だろう。

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