※店長とは:漫画「君と僕。」の七巻にでてくる祐希くんのバイト先の店長のことです。 〇 コツコツと音をたてながらマンションの階段をのぼりきると、わたしの部屋のドアの横で店長がヤンキー座りをしていた。若干眠そうな店長はわたしを見つけるや否や「早くドアをあけろ」とまるで命令をするかのように言ってきたのでわたしは小さな声で「…全く、生意気ですね」と告げたあとしぶしぶドアをあけてあげた。 それを見て、よっこらせっと腰をあげた店長は、わたしのこの対応が当然だといわんばかりずかずか部屋に侵入してきた。そんなわがままで態度の大きい店長にわたしはなにか言ってやろうかと意気込んだが、店長がつかさず「ん、」とお菓子がどっさり入ったスーパー袋を渡してくれたのでとりあえず文句は保留にしておくことにした。 「おれコーヒーでいいから。」 「え、なんですか。まさか淹れろってことですか。」 「はやく。」 「……」 「あ、ブラックな。」 店長はマガジンラックに置いてあったファッション雑誌を、興味なさそうにぱらぱらとめくりながらそう告げた。 「もう、まだそれ読んでなかったのに」 そんなちっぽけな不満は店長の耳には全くとどかなかったので、わたしは嘆くふりをしたあとおおげさにため息をついた。…そして、そのあとわたしはのろのろと立ち上がって仕方なく、やむを得ず、コーヒーを淹れにキッチンへとむかった。 〇 しばらくしてわたしはあつあつのコーヒーと抹茶ラテを慎重にはこび、リビングにあるまあるいテーブルの上にコーヒーをおいてあげた。 「お、サンキューな。」 「はいはい。…っていうか合鍵はどうしたんですか。いつもみたいに勝手に部屋に入っていればよかったじゃないですか。」 「なくした。」 「え」 「うそうそ。今日は店から直接ここにきたからたまたま持ってなかったんだよ。」 「ああなるほど…」 「しかも朝方すこし急いでたから部屋に鍵を忘れてきちまったんだよ。」 「店長が急ぐなんて珍しいですね。」 「急に用事が入っちまったからな。」 「ふーん」 わたしはテキトーに相づちをうちながらあつあつの抹茶ラテをスプーンでかきまわした。 「あ…ちょっと、」 「ん?」 「おうちのなかでたばこ吸うのは禁止ですよ」 「…おまえそんなこと言ってたか?」 「ほんのすこしまえにいっしょに決めました。まさか忘れたわけないですよね。」 「…厳しいな」 「あたりまえです」 「……」 「ほら、けしたけした」 わたしはそう言いながら店長に携帯灰皿をだすようにうながした。店長はしぶしぶジーパンのポッケから携帯灰皿をだした。 「えらいですよ店長」 わたしはにこにこしながら満足そうにそう告げると店長は一瞬の隙をついて、短くなったたばこをもう一度口にくわえた。 「あ、」 完全に油断していたわたしは声を出して指摘するのが遅くなってしまったが、とりあえず店長のたばこを強制撤去するためにぐいっと右手を伸ばした。そうしたら店長は「かかったな」とわけのわからないことを言ったあと、わたしの手をひっぱり強引に唇をあててきた。 「んう、」 わたしは新鮮な酸素をもとめるために口を少し開けた。そしたらすばやく店長の舌がわたしの口の中に入ってきて、わたしの口内をぐるぐるとかき回した。店長の舌はきついたばこの味がして、だんだんくらくらしてきて、おこさまのわたしにはちょっぴりつらいものがあった。 ようやく店長がわたしを開放してくれたのでわたしはたっぷり息を吸いこんだ。けれど、口の中に残ったたばこの味と匂いでほんのすこしだけケホッとむせてしまった。 「ガキ」 店長はニヤッとわらいながらわたしにむかってそう言ってきた。わたしはじぶんがガキといわれたことにもかちーんときたが、それよりも店長が余裕しゃくしゃくなことのほうがもっとかちーんときた。…わたしはこんなにもいっぱいいっぱいだというのに。 悔しくなったからわたしは店長の頭をぐいっとひっぱりもう一度口づけをした。 「ん、」 わたしのこの行動が予想外だったらしく、店長は目を見開きながら驚いていた。わたしはそんな反応を見れてうれしくなったが、またくちのなかにたばこの味が広がってきたのですぐに口を離した。 「…ばかかおまえは」 店長は呆れ気味に笑ってぐしゃぐしゃとわたしの頭を撫でた。わたしはまたばかにされたのかと思ったので、今度こそはがつんと言ってやろうと思った。が、わたしが口を開こうとしたとたん店長がギュッとわたしを抱き締めてきた。 「でも、やっぱりかわいいな。おまえは。」 こんどはわたしが目を見開く番だった。もう…ずるいひとだなあ、ほんと。 |