Time of bliss .
この島に停泊して五日目…というかあいつと一緒に街へ出かける日当日、見事に寝坊を決め込んでしまった俺は今から船を出ても到底なまえが(勝手に)決めた待ち合わせ時間に間に合いそうもないということが分かっていたけど、店へ向かって懸命に走っていた。んーっと…ああ、十時まであと数分か…まあ、この距離じゃあ遅刻は確実だけどとりあえずこのまま走り続けとくか。
○△□
「…随分遅かったじゃないのよ。」
「ハハッ、わりいわりい。これでも一応急いだんだけどな。」
「…その直しきれていない寝癖を見る限りで言うと遅刻の原因は寝坊ってとこかしら?」
「お、ご名答!!」
「……。はぁ…。ま、いいわ。そんなことより早く行きましょ。」
なんて呆れたようにクスッと笑ったなまえは早々と身を翻して歩き始めた。時折吹くそよ風があいつの花柄ワンピースがひらりと揺らす。ああ、今日は良い天気だなー。
「あっ!!」
「(ビクッ)うおっ!い…いきなりなんだよ!」
「ねえねえエース!あたしこのお店見たいんだけど、寄っていい?」
「あ、ああ…。別にいいぜ。」
俺がホッと胸を撫で下ろしながらそう言うとなまえは小走りをしながら雑貨屋へと入っていった。そして道端にぽつんと残された俺も一応あいつの後を着いて行き、その店の中へ入るとそこにはいかにも女が好きそうなふわふわきらきらなものが所狭しと並んでいた。
「…っつーかあいつ、一体どこに行ったんだよ。」
そうなのだ。俺は間髪入れずついて行ったはずなのに、問題のあいつの姿がどこにも見当たらない。……うーん、別にデカい店じゃねえからすぐ見つかるとは思うんだけど…なんて考えながらとりあえず品物を見ながらぶらぶらと店の中を歩いているとようやく俺は奥の方であいつの姿を発見した。
「…なーにやってんだよ。」
棚の近くでしゃがみ込んでいたなまえ頭の上にポンッと手を乗せると何故かあいつは凄まじい速さでこちらに顔を向けてきた。
「うおっ」
「ねえエース、これすごく可愛いくないっ!?」
「ん?…どれだよ。」
「これよ!これ!」
そう言いながら若干興奮気味のなまえが指をさす先には、コバルトブルーの宝石がふんだんにあしらわれた十字架のネックレスが小綺麗に飾られていた。
「おー…、まあ確かに綺麗だな。」
「でしょ!?」
「買うのか?」
「あー…うーん、どうしよう…。今月は結構キツいからなー…。」
「じゃ諦めるんだな。」
「えっ、そこは普通「このネックレス位俺が買ってやるよ。」とか言う場面でしょ。」
「残念。生憎俺は今、そんなに金を持ってないんでね。まあ…もし持っていたとしても俺の場合、全部食いもんに使っちまうだろうな〜。」
「…エースの意地悪っ」
「んな顔すんじゃねえ。っつーかそれより飯!飯食いに行こうぜ!」
「ぶー」
なまえはいかにも不満そうに頬を膨らませたのでとりあえず俺は襟首をガシッと掴み、こいつを引きずりながら店を出た。
○△□
「おい」
「……」
「なあ」
「……」
「なんか言えよ」
「……」
「はぁ…。…あっ!!」
「…?」
「なあなあなまえ、このメシ屋なんてどうだ?」
なんて俺はなまえの方をくるっと向いてそう提案をすると、つい先程までふて腐れてシカトを決め込んでいたあいつの顔はいとも簡単にパッと眩しい笑顔へと変わった。
「あら、もしかしてピザ屋さんに行くつもりなの?」
「おう!」
「まあ!それはいい考えね!じゃあ早速行きましょっか!」
「そうだな!」
この時、俺はこいつの変わり身の速さに最早感心の念を抱いていたがとりあえず走っていくなまえの後について行き、洒落た店内へと入っていった。
そして数時間かけながら大量のピザをたらふく食べた後、俺たちは再び街中へ行きレコード屋やら本屋やら喫茶店やら沢山の所を巡った。
「ふー、つかれた。」
「だなー…あっ!!」
「な、何?」
「…俺ちょっと、最初に行った雑貨屋に戻るわ。」
「どうかしたの?」
「あっ、いや…ただの野暮用だよ。」
「へ…なに、それ?」
「あ、あんまり深く考えるな」
「…?」
「〜っ!!と、とにかく!すぐ帰ってくるようにするから、お前は何も言わずにここらへんで待ってろ!いいな?絶対だぞ!!」
「わ、わかったわ。」
俺はなまえの返事を聞いた後、すぐに強く地面を蹴りだして元来た道を戻った。…あー、くそ。ほんと何やってんだよ俺。っつーか、よく考えたら結構あの雑貨屋、めちゃくちゃ遠いじゃねえかよ。…チッ。ま、もーいっか。とりあえず、俺今金持ってるっけなー…。
○△□
結局、意外とポケットの中に金を忍ばせていた俺は、有り金全部を叩いて、例のブツを購入した。そしてその後足早になまえと別れた場所へ戻ると、あろうことかあいつはいかにも柄の悪そうな山賊的連中にぐるっと取り囲まれていたのだ。
はあ…俺がいない間にどうしてこうなったんだ。と心の中で深い溜め息をつきながらもとりあえず俺はなまえの元へと駆けて行った。
「おいなまえ、大丈夫か?」
「あ、エース!助けに来てくれると思ったわ!」
「まあな。…っつーかそこのあんたら、か弱い女を複数で取り囲むなんて男として恥ずかしくねえのかよ。」
「ぁあっ!?テメェにゃあ関係ねえことだろ!?それとも俺らとやるってのか!?」
「ま、別にそれでもいいぜ。ただし手加減はしてやらねえぞ。全員燃やしてやる。」
なんて戦意に満ちた俺のその言葉を聞いた途端、突然後方にいたやつが声を張り上げた。
「お、お前、どこかで見た顔だとは思っていたがまさか…ポートガス・D・エース!?」
「お?あんたら俺のこと知ってるのか?いやーまさか山賊にまで名が知られてるなんて思ってもいなかったぜ!ハハ!」
なんて俺がケロッと肯定の言葉を言い放つと山賊たちは一瞬にして青ざめ、「なまえちゃんよお、今度会ったら覚えとけよ!」という捨て台詞を残してあわあわと逃げ出してしまった。…なんだよ戦わねえのかよ。つまんねえの〜。
「……」
「……」
「あ、ありがとう…」
「どう致しまして。っつーかお前、あいつらと知り合いか?」
「へ」
「いや、だってさっきお前の名前呼んでたからよぉ」
「……」
「…?」
「…あんなやつら知らないわ」
「…そっか」
「それよりエース、どこか行きたい所はある?」
「いんや、もう別にねえかな。」
「そ?じゃあ今日はこれくらいでお開きにしましょっか。」
「おう。でもちょっと待て。」
「?」
「…ほらよ」
俺はそっぽを向きながら最初の雑貨屋で買ったブツを取り出し、なまえにやるとあいつは一気に目を輝かせた。
「これっ…!」
「おう。……あ、いっ…言っとくけどたまたまだからな!!ほんとたまたま金があったから買ってやっただけだからな!」
「……」
「…って聞いてるかお前?」
「うう、ありがとうエースっ!!」
「うおっ」
「あたしこのネックレス一生大事にするわ!」
「へいへい」
「エース大好き!」
「…へいへい」
そんなこんなでなまえに勢いよく抱き着かれた俺は思わず地面に倒れそうになったがそこを何とかこらえて踏み止まった。…ま、あのネックレス結構高かったけどこいつがこんなに幸せそうならいっか。