The world of me changing .
この島に停泊して二日目、日の出ている間は仲間たちと食料を仕入れたり森の中を探検をしていたのだがそんなことをしている最中も俺はあの女のことを考えてしまっていた。よく分からないけどとにかくもう一度あの女に会いたい。考えに考えを重ねやっとそう結論を出した俺はとっぷりと暮れてしまった夜にまたあの小さなバーへと足を運んでいた。
冷たい風が吹く中ようやくバーの前へ到着したのだがその時俺はある小さな異変に気付いた。店の電気が付いてない…。不審に思ったのでバーの近くまで行ってみるとドアには「closed」という看板が控えめにかけられていた。
「………」
なんだ、もう閉店しちまったのか…。なんて柄にもなく肩を落としてまた元来た道を戻っているとふいに後ろの方からあの女が誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ちょっと、君!」
「……」
「もう君よ君!そこのオレンジ色の帽子を被ってる君!」
「…俺?」
「そう君!」
「…何か用かよ。」
「もう、何か用かよって…君今うちの店見てたでしょ?」
「……」
「ねえ、よかったら今から一緒に飲まない?」
「は、」
「ん?俺も飲みたい所だったって?よし、じゃあ先にお店に入って待っててちょうだい。電気は棚の近くにあるから。」
「あ、おい、ちょ…!」
っと待てよ、と言葉を続ける前にあの女はロングスカートをなびかせながら闇の中へと消えていってしまった。…ったくあいつ意外と強引な女だな。てっきり俺はもう少しおしとやかなやつだと思ってたんだけど…。なんて溜息をついてパチンと電気を点けると床には酒瓶が沢山転がっていた。う、うわ…
「あ、そこらへん汚いかもしれないけど気にしないで座ってね。」
いつの間にかここに戻ってきていたあいつは両手にウイスキーのボトルを持ってこちらにふんわりと笑いかけていた。
「俺、未成年…」
「ま、そんな細かいこと気にしなくていいわ。」
こいつはそう言ってふふんと得意げに笑ったがそんな自信はどこから湧いてくるのやら。まあいい。今日は気分も良いしとにかく素直に飲んでやろう。
「おう…」
「よし、そうと決まったらはいどうぞ。」
「……、なあ」
「ん?」
「もし…もし、ゴール・D・ロジャーに子供がいたら」
「あら、またその話?」
「いいから」
「はいはい。」
「お前だったら…、お前だったらそいつとどう接する…?」
控えめにそう聞くとそいつはグラスに注がれてたウイスキーを飲み干した後こう答えた。
「…そんなこと分からないわ。」
……。やっぱりそうか。…今、そういう反応をするっつーことは昨日のこいつが言ったことはぜーんぶ嘘だったってことなんだな。なのに俺はその言葉で浮かれてたってことなんだな。……っ。ああくそ。畜生。なんだかすごく、すごく俺が馬鹿みてえじゃねえか。すごく、すごく悔しいじゃねえか…。
「…そうか。」
「だってあなた、もし仮にゴール・D・ロジャーに子供がいたとしてもその子がどんな性格をしてるか分からないでしょ?」
「……は?」
「もう…は?じゃなくて。いい?そもそも人間ってのはね、その人の性格とか自分がその人と気が合うかどうかによって接し方が変わるものなのよ。だから今そんなこと聞かれても分からないわ。」
「………」
よし分かった。こいつはとんだへんてこ野郎だ。だって大抵の野郎に同じ質問をするとロジャーの子供なら必ずと言って良いほど無条件に死刑だとか生まれてくる必要の無かった奴だとか存在が罪だとか言ってきたのにこいつは違った。こいつは俺のことをちゃんと、見てくれている。
「くくっ…」
「……ちょっと何笑ってるのよ。」
「いや、なんでも?」
「…ふーん、変な人。」
「いや、お前の方がよっぽど変だろ。」
「まあ、失礼しちゃうわ。」
「おい、ふて腐れるなって。」
「ふんっ。知らないわ。」
「ったく。……あ、」
「?」
「そういえばお前名前は?」
「…なまえよ。」
「ふーん…、良い名前だな。」
「…ほんと?」
「ああ。」
「まあ嬉しい!この名前は母さんが付けてくれた大切な名前なのよ!」
「…そうか。」
「あ、そういえば貴方の名前は?」
「ん?…ああ、俺の名前はエースだ。」
「貴方の名前も良い名前ね。」
「…そうか?」
「ええ、そうよ!」
「……。」
「ねえエース、」
「あ?」
「よかったら明日からこの時間、ここでおしゃべりしない?」
「は?」
「あたし、貴方とお友達になりたいの!」
「……。」
「ダメ…?」
「…別にいいぜ。」
「嬉しい!じゃあまた明日ここに来てね!」
「おう。」
その時俺はなまえのくるくる変わる表情がとても魅力的に思えて思わず笑みを零してしまった。何回も言うようだか今日はなんだか気分がいい。それにさっき、こいつに俺の名前が良い名前だと言われたからロジャーが考えたらしいこの名前にも自然と愛着が湧いてきて思わず鼻歌を歌いそうになってしまった。