例え、お前のせいで世界を失うことがあったとしても、世界のせいでお前を失うことがあっては絶対にならない。なのに、何故。





戦場は俺達を待ってはくれない。いくら自分たちが待てと言ってもミスをすれば必ず命を掻っ攫っていく。戦場はそういう所だ。だから五覚を鋭く研ぎ澄ませ。相手を分析して的確に仕留めろ。必ず全員生きて帰ってこい。この言葉を俺は、耳にタコが出来るくらい聞かされた。

なのになんだこの有様は。

最悪の出来事は一瞬の内にして起きた。俺が自分の背後から近づいてくる天人に気が付かなかったから、あいつはやられた。あいつは俺の代わりに刀で斬られたのだ。あいつは俺のことを身を呈して護ってくれたのだ。

地面に倒れ込む血まみれのあいつを見つめながら俺は呆然とした。動こうとしない震えた足を必死に動かしてあいつの元へと駆け寄り、強く抱きしめた。

「お、い」

俺は若干震えた声でそう呼びかけたがあいつは弱々しい笑顔を見せるだけだった。それはいつも見せるふざけた笑顔とは程遠い生気の無い笑顔だった。

「晋助…ごめんね、一緒に帰れなくてほんと、ごめんね…」

「…てめえ弱気になってんじゃねえよ。」

俺はそう言いながら腕に強く力を込めるとあいつは「でも…」と口ごもった。

「もう今はあんましゃべんな。もうすぐ医者が来るはずだから安静にしてろ。」

「…別に医者なんて、いらないよ。もう自分が、だめだってこと位、分かってるから…」

「…そんなこと言うんじゃねえ。まだ平気に決まってんだろうが。」

「もう…そう言いながらも晋助、今にも泣きそうっていう顔ね…」

「…うるせえ」

「意地なんか張っちゃって…そういうとこ、全っ然変わってないね…」

「……」

「ほんとあんたは昔から、馬鹿で、あほで、まぬけで、弱虫。…でもね、あたしは」

そんなあんたのことが、好きだったんだよ。愛してたんだよ。

あいつの口から滑り出した言葉は余りにもシンプルで、俺の心に強く、そして深く突き刺さった。

「     」

俺はとうとう我慢が出来なくなって涙を流しながら声にならない声であいつの名前を呼んだ。あいつは目を潤ませつつもしっかり、笑いながら頷いた。

「わたしは、あんたが生きていてくれるだけで、十分。ほんとよ。」

「……」

「だから、ほら笑って…あんたなら、この先あたしがいなくても絶対大丈、夫…」

あいつはそう言い切ると静かに目を閉じた後、俺の腕からずり落ちてゆっくり地面に倒れた。…っ、畜生、畜生っ…。俺は愛する女一人も護ることが出来ないのか。愛する女一人の言うこともろくに聞けずに、ぼろぼろと涙を零しているのか。




ぬるい絶望が心地悪い

ねえ…晋助、あんたはこの先あたしの分までたっぷり人生楽しんで、わたしの分まで沢山、沢山笑ってね。絶対約束よ。

…俺はお前がいないこの腐った世界で人生を楽しむことも沢山笑うこともできねえよ。だから頼む。お願いだから一人で勝手に逝かないでくれ…。

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@攘夷戦争
for レオン
Thank you very much !

110210