※現パロ

ついさっき、俺はなまえと別れてきた。…っつーか厳密に言うと、一方的にバッサリと振られちまった。理由は…まあ、あいつのことだから正直よく分からねえけど、とりあえず俺の心の中にはまだあいつへの未練が水飴のごとく残っていた。

俺は唸りながら考えた。一体全体何がいけなかったのかのだろうかと。しかし、いくら考えても振られた理由は思い当たらない。笑えない。けど…ん?…あ、もしかしてこの間約束をほっぽりだしたことがいけなかったのか?それともあいつの指輪のサイズが分からなくてとりあえずでかいのを買っちまったことか?はたまた最近仕事ばっかりやっててあんまり構ってやれなかったからか?

…なんかどれも違うようでどれもどれも合ってるような気がする。

ふう、と溜め息をついた後テーブルに突っ伏すと、棚の上に置いてあったアンティーク調のオルゴールが目に入った。ああ、あれは確か…そうだ、彼女がくれたプレゼントだ。

俺はゆっくり歩み寄ってそれをそっと手に取ると次の瞬間、あいつとの思い出が次々と頭の中に浮かんできた。

そういえばあいつはオルゴールがとてつもなく好きだった。そしてよくすやすやと眠りこけるやつだった。ずっと前にはパウンドケーキを一本食いして胸やけをしていた。初めてのデートで水族館に行った時はクラゲを軽く2時間は見つめていた。エスパーの番組を観て「あたしもスプーン曲げが出来るようになりたいよう」と俺に駄々をこねていた。機嫌が良くなるとよく不思議なタップダンスを踊っていた。自販機で買った熱々のコーンスープを馬鹿みたいに一気飲みをして火傷をしていた。プールに行った時、カナヅチの俺を放って置いて魚みたいにすいすいと泳いでいた。おでんの中に入れるはずだったゆで卵を何故か電子レンジに入れて爆発させ呆然としていた。たまに行くペットショップにいるラブラドールとじゃれたいらしかったけど犬アレルギーだったため、むずむずしつつ地団駄を踏んでいた。よく、桜の花びらや銀杏の葉っぱを髪の毛にくっつけていた。公園で会ったちびっこたちといつの間にか仲良くなっていた。スマブラで惨敗した時、俺の見えない所で肩を落としていた。外国の切手をさも嬉しそうに宝箱に閉まっていた。あいつはえくぼを見せてふわふわと笑っていた。あいつは顔を風船みたいに膨らませてぷんすか怒っていた。あいつは半ば魂が抜けたかのようにめそめそ泣いていた。あいつは真っ赤になかりながら唇を尖らせて恥ずかしがっていた。あいつは気が付けばいつも隣にいた。そしてこれからもずっと隣にいることが当然だと思っていた。俺はそんな不思議でどうしようもないあいつのことがとてもとても好きだった。てっきりこれからも二人の思い出を増やしていけるものだと思っていた。

だけど…本当は違っていた。

気が付くと俺は静かに泣いていた。ああ…なんとなく分かったよ。こんなの男として情けないけど、すごく女々しいけど、どうやら俺は「あいつ」じゃないとだめらしい。これからも、この先も。ずっとずっと永遠に。




綺麗な宝石はこぽこぽと音をたてながら深く沈みこむ

110203