一筋の涙が頬を伝った。…あれ、俺ってこんなに弱い人間だったか?




能力を持っている自分は傷を受けても再生し続けるが、仲間たちは一瞬で傷を消すことも出来ないし、場合によってはこの前の戦いの時のようになんの前触れもなく死んでしまう。…俺はそのことが突然、どうしようもなく悲しくなった。…いや、別にこの能力が嫌いになった訳ではないし寧ろ今も俺好みのいい力だと思っている。だけど、時々どうしても思ってしまうのだ。この能力があるからこそ、よほどのことが無い限り俺は死なない。否、死ねないのだと。…まあ、言ってみればそれはすごく便利でありがたいことだけど、でも、今はそういうことを言いたいんじゃなくて…そう、これだとまるで自分だけ「死」という存在から距離を置かれてるみたいに感じるのだ。みんなから、仲間から距離が置かれてるみたいなのだ。

そんな重苦しいことを思い耽りながら俺はボロボロのなまえが寝ているベッドを見詰め、無意識に涙を零した。ああ、きっとこいつも沢山傷ついただろう。沢山涙を流しただろう。だけど俺は、こいつに対して何もしてやることができなかった。そればかりかサッチやエース、親父や海賊団の仲間たちも助けることすら出来なかった。

「…っ」

自分がこんなにも弱くて無力だと思い知らされたことはそう無かっただろう。だけど今ははっきりと分かる。俺はあの戦いで誰一人として救うことが出来なかったのだ。

「…ごめんな、辛い思いさせて…ごめんな。」

俺は独り言を言うかのように寝ているなまえに向かってただひたすら謝り、何かに導かれるかのように赤みを帯びた頬に手を滑らした。すると突然、優しい温度を持った手が俺の手をふわりと包み込んだ。

「……」

「……」

「…どうして、泣いてるの?」

「…別に泣いてなんかいねえよい。」

「あら、貴方って嘘ばっかりつくのね。」

「うるせえクソガキ。」

「クソガキじゃないわ、おっさん。」

「…生意気に減らず口なんか叩いてんじゃねえよい。」

「それはこっちのセリフよ。…。まあ、でも」

「?」

「…正直な所、貴方とまたこうやって言い合うことが出来てよかったわ。」

「……」

「貴方が生きててくれて、よかった。」

こいつはまるで俺の思っていることが分かるかのようにそう言った。そのシンプルで今、一番欲しがっていた言葉は悲しみに満ちた胸に染み込み、鬱陶しいモヤをすうっと晴らしてくれた。自分だって傷だらけのくせにそんなことお構いなしと言うかのように「生きててくれてよかった」と呟いてくれた。…うん、そうだよな。こいつはそういう女だった。自分のことよりもまず、人のことを一番に考え、大切にするいい女だった。

俺はそんななまえを見て強く決心をした。もう終わっちまったことで未練たらしくクヨクヨしないでおこうと。そんで今、目の前にある命を、仲間を、未来を大切にしようと。…じゃないと親父たちに顔向けできねえ。

「なまえ、」

「何?」

「…生きていてくれてありがとうな。」

俺がそう言うとこいつは少し驚いたように目を見開き、その後いつも見せるようないたずらっ子のような笑顔で「それはこっちのセリフよ」と言ってきた。




一角獣と賛美歌

100122