どうも最近、後輩に言われた「愛が足りない」という言葉やいとこの寂しい背中などが頭の中をぐるぐると回っている。どろどろになったビターチョコのような渦は俺の心をもやもやにして、まるでおかしく作りに失敗したかのような悲しい気分にまでしてくるので俺は机に顔を突っ伏した。

「平介〜」

突然、なんともやる気のなさそうな声が上から降ってきた。とりあえず俺は伏せたまま「なんですかあ。」と返事をした。

「ねえ、次家庭科だよ?しかも調理実習だよ?ほら、だから早く移動しないと!」

彼女は普段、俺と同じくらいやる気がないはずなのにこの時だけは何故か嬉しそうに指で頭をつついてきた。けれど、俺は「う〜ん」と言ったまま頑なに動こうとはしなかった。

「えっ!!」

そんな俺の態度を目の当たりにした瞬間、彼女は大声をあげた。そして「平介が調理実習に反応を示さないなんてっ…!」と大げさに嘆きはじめた。ちなみに彼女がどんなリアクションをしているかはだいたい見なくても想像ができる。

「まあ俺にだってこんな時もありますよ。」

「原因はあの一年生?」

「ははは」

「…あー、それとあのかわいいいとこかあ。」

「んー…まあ、そんなところかな。」

「そうかあ。まあ最近ずっと攻撃うけてたもんねえ。」

「そうなんですよ〜。」

「愛が足りないとか、心から同情しろとか。」

「それそれ。」

「まあ…きっと彼はもっといとこのことを心配しろって言いたいんだろうねえ。」

「おそらくねえ。」

「…でも、わたしはそのいとこのことよりも平介の方が心配だよ。」

「…え?」

ここ最近、聞いた類いのないことばに俺は思わずもそっと顔をあげてしまった。そしたらその瞬間、なまえと俺の視線がばっちり重なった。

「えっ、と…君はあっくんより俺の方が心配なの?」

「うん。平介の方が心配。最近元気ないし。きっと鈴木も佐藤もそう思ってるよ。」

ちょっぴり驚いた俺がなにも言わず瞬きを二、三回するとなまえは「なにその反応」と言ってけらけら笑いだした。

その瞬間、俺の心はなんだか急に軽くなった。なんとなく、その笑顔とその言葉が俺の中のわだかまりを少しだけ消してくれたような気がした。あれ、俺、もしかしたらこのままでもいいのかもしれない。っていうかこのままの方がなんか心地いいや。自然体万歳。

「なまえさん、」

「はい」

「調理実習で作る食べ物ってなんだっけ?」

「確かスコーンじゃなかったっけ?」

「じゃあ一緒に作ろっか。」

「わたし平介みたいにうまくできるかわかんないけど平気?」

なまえは俺に向かってへらっと笑ってくれた。だから、今まで若干しょーんとしていた俺も自然と笑顔になれた。

「もし失敗したら俺がなんとかしますよ。」

そう言ってガタッと席を立ち上がるとなまえは「うわあ、平介がそんなこと言うなんてあしたは雨でも降るのかなあ」と言いながらぱたぱたと後ろをついてきた。



こんなぼへえっとした俺でもたまには悩んだりすることがあるんだということがここ最近になってようやく分かった。だけど、自分のことをほんの少しでも真剣に考えてくれる人が傍にいてくれるのならそんな境遇がちょこちょこあっても案外なんとか生きていけるのかもしれないなあ、なんて柄にもないことを思ってしまった。

まあ、そもそもそんなに重たい話じゃないんだけどね。


クリーミーな箱庭

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