※バラティエサンジくん レストランの厨房から甘い甘いチョコレートの匂いが流れてきてわたしの鼻をくすぐった。見たところによるとサンジくんが上機嫌でわたしの為にスイーツを作ってくれているらしい。そしてわたしはというとソファーの上でまどろんで窓から差し込むまばゆい光の中で料理するサンジくんを見詰めている。ああ、サンジくんの髪の毛、陽の光に照らされいてとっても綺麗だなあ。 「できたよ」 わたしがぼんやりそんなことを考えているとサンジくんは目の前にフォンダンショコラを置いてくれた。サンジくんが作ってくれたフォンダンショコラはほくほく、つやつやしていて今まで見てきたどのフォンダンショコラよりも美味しそうだった。 「じゃあ…いただきます」 わたしはそう呟き早速フォークを手にした。そういえばお店の中は珍しく音楽も流れておらず、わたしがかちゃかちゃフォークを動かす音しかして響いていない。ああ、それにしても静かだなあ。 「お味はどうですか?」 目の前に座っているサンジくんが柔らかい声でそう聞いてきた。もう、そんなの決まってるじゃない。 「すごくおいしいよ」 「そっか」 サンジくんは短くそう返事すると目を細め、きらきら光っている髪の毛に負けないくらい素敵な笑顔を作った。 「うん。だからさサンジくん」 「ん?」 「えっと…これ、また作ってくれるかな?」 あたしはサンジくんのガラス玉のような青い瞳を見詰めてそう言った。…ねえ、サンジくん知ってる?これはね、あたしの精一杯お願いなんだよ。わたしはね、恥ずかしがり屋で意地っ張りだからバラティエを旅立つサンジくんに向けて「またいつかここに戻ってきてね」なんて言えないんだ。だからこの言葉はわたしなりの遠回しな、特別な表現なの。 「……」 「…だめ?」 「ううん。もちろん良いに決まってるだろ。」 「ほんと?」 「ああ。だって、俺もまたこれをなまえちゃんの為に作りたいし。」 「へへ、嬉しい。」 「それにあと、君には伝えたい大切ことが沢山あるしね。」 「え、伝えたいこ…」 とってなに?と言葉を続けようと思ったのだが、話の途中でサンジくんのスラッとした長い人差し指があたしの唇に優しく触れた。 「それは俺が帰ってきてからのお楽しみ。」 「なぜ?」 「それはね、この言葉は俺が君を護れる位強くなってから言いたい言葉なんだ。だってそっちの方が男らしいだろ?」 ふふ、そうだねサンジくん。この楽しみはちょっぴり大人になった貴方がこのレストランに笑顔で帰ってくるまで取っておくことにするわ。だってそっちの方がわくわくするでしょ? |