わたしは今、自分にはもったいないくらいすてきな人と付き合っている。その人は頭がきれてかっこよくて運動神経ばつぐんで意外と器用。あ、でもすこしだけ女ぐせがわるいところがたまに傷かな。でもとにかく、わたしは彼といてしあわせだった。そりゃあまあ、しあわせと言ってもたのしいことやうれしいことばかりではなかったし、時折イラッてくることも、ムカッとくることもあった。いくら近くにいても相手の気持ちが全部わかるわけじゃないから、ほんの些細なことでぶちギレたりなんでもないことでどうしようもなく不安になってしまうときもあった。だけど、やっぱり大切だからなにがあっても彼のことを嫌いにまではなれなかった。わたしと彼にはとくべつな繋がりがあるから離れられなかった。離れられるわけがなかった。 まあ、きっとお互いにそんな考えを持ってたからなんだかんだでわたしたちは今まで末長く付き合ってこれたんだろう。最近は言い合いもとっくみ合いもしなくなったし、クロスに関しては女ぐせがちょっぴりよくなり、莫大な借金も減りつつあった。まあ、借金の方はわたしたちがなんとかしたわけじゃあないけど。 「ねえクロスー」 「あ?」 「食堂の日替わりデザート何かなあ」 「んなこたあしらねえよ」 久々に重なった休みの日、クロスは優雅に足を組んで外国の新聞を読みながらそう言った。わたしは引き出しにしまったはずのアロマポットを必死にさがしていた。 「ねえクロスー」 「あ?」 「アロマオイルたらすなら何の香りがすき?」 「興味ねえ」 「ふーん」 わたしはクロスの方を向かずにそう言った。部屋のなかには新聞をめくる音とがらくたを出し入れする音だけがひびいた。 「ねえクロス」 「あ?」 「だいすき。」 「俺もお前がだいすきだ。」 ここで初めてわたしたちは視線をあわせて、どちらからともなく微笑んだ。そうしたらわたしのお腹の底はぽかぽかと温かくなり、わたあめのようにふわふわした気持ちになった。わたしは、いや、わたしたちはいつもこんなかんじのやりとりだけで満足してしてしまうのだ。ともだちには熟年夫婦みたいって言われることもあるけど、世界でいちばん大切な人にだいすきと言って、おなじようにだいすきと言ってもらえることだけでわたしはしあわせになれるのだ。十分なのだ。 だって恋って、人をすきになるってこういうスマートなことでしょ? 「ふふっ、」 「なんだよきもちわりい。」 「いやあ、しあわせだなあって思ってさ。」 「そりゃあ奇遇だな。」 あはは、なんかわたしたち、むかしより丸くなったね。 simple style . |