朝から仕事があったわたしは、眠い目をこすりながらお店へと向かった。すると、いきなり同僚の子から小さな紙を差し出された。

「これ何?」

「なんかね、朝早くにローさんから預かったの。」

「ローさん」――その単語を聞いただけでわたしの心は大袈裟に疼いた。今さっきまで眠気が満ちていた脳は一気に覚醒し、同僚の手に握られている小さな紙が欲しくて欲しくて堪らなくなった。

ローさんとは約一年前に突然、この島に来た海賊団の船長さんのことだ。彼はその頃から他の人とは違うオーラやフェロモンを惜しみなく放っており、すぐ女の人たちからはモテ始めた。もちろんわたしもすぐ彼の虜になり、あほな思春期の女の子みたいに彼を異常に意識するようになった。これが「恋は盲目」というやつなのだろうか。

しかし、わたしは他の恋する乙女と同じ行動を取るのが嫌だった。大多数の人と同じようなアピールや反応をして彼の印象に残らない位なら、ほんの少しでも、彼の頭に残るような生意気な女を演じようと思った。

だから彼がお店に来てもわたしだけはローさんに群がらずツンとしていた態度を取っていた。そうしていたらそんな可愛げのない、珍しいタイプのわたしに興味をひかれたのか、ローさんはちょこちょこと話しかけてくれるようになった。でも持ってくれたのはあくまでも興味。好意ではなかった。

でも、わたしは生意気な態度を取りながらもそれなりにアピールをした。「一緒に海を旅したい。」とも何度も言った。しかし返ってくるのは薄ら笑いと曖昧な言葉だけ。はっきり受け入れてくれる訳でもなくきっぱり拒絶してくれる訳でもなかった。

だからわたしにとって、ローさんから手紙をもらえることはすごく嬉しいことだった。紙は小さいけれどローさんから何かを貰うのは初めてだし、わたし一人だけの為のものだから知らず知らずに顔が緩んでしまっていた。

とりあえず緊張しながら、ゆっくりと折り畳まれた紙を開くとそこには予想外かつ絶望的なことが書いてきた。

「そろそろ俺は海へ旅立つ。今まで世話になったな。」

その文字を目の当たりにした瞬間、わたしの頭は回転しなくなった。だって唐突すぎるんだもん。だけど、そんな混乱した頭でも一つだけ理解できたことがあった。それは「ローさんはわたしに微塵の好意も抱いていなかった。」ということだ。だってわたしも一緒に海に行きたかったのに自分たちだけでさっさと行っちゃったんだもん。

でも、小さい紙の端っこを見てみると綺麗な字でこう書いてあった。「また会える日を楽しみにしている」と。

それを見た瞬間、わたしの心には強い呪いのような魔法がかかった。ああ、ちくしょう。ちくしょうちくしょうちくしょう。もうなんだよ。なんなんだよ、ローさんってばほんとずるいよ。だって海へ出てしまった海賊となんて二度と会えないってこと位このわたしだって知ってるんだよ?なのになんでそんな残酷なことを言うのかな。わたし馬鹿だから期待しちゃうじゃん。無理だって分かってても、もしかしたら、本当にもしかしたらって思っちゃうじゃん。だってわたしはローさんのことが本気で好きなんだもん。物分かり悪いけどしょうがないじゃん。だってわたしはローさんのことを本気で愛してるんだもん。

一生恋焦がれても、死ぬまで待ち続けてもしょうがないじゃん。だって、だって

生まれて初めて運命を感じた人なんだもん。


呪 縛
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110601