あたしはどこにでもいるような普通のバンギャだけど、本気でロックスターになろうとしているめちゃくちゃ痛々しいやつでもある。だから大学三年生になってもあたしはロクに就活をやらず、同じようなニートまっしぐらの音楽馬鹿共とつるんでいる。多分世間から見たら超終わってる人間だと思うけど就活なんてしょうもないことなんかやってらんない。そんなことやってる暇あんなら俄然ベースを弾くよ、あたしは。 「ねえ、今日のライブ、人来るかなあ。」 無意識の内に口にしていた言葉は天井へ吸い込まれて行った。 「まあ…いつも通りじゃね?」 「あ、やっぱ?」 「おう」 「…そんなもんかー」 「そんなもんよー」 「おい、今からリハやんぞ。」 「へーい」 「ほーい」 「てめえらもうちっと気合い入れろやボケ。」 あたしは舞台裏の廊下を歩いているときに二人を呼び止めた。 「ねえねえ」 「あ?」 「晋助も、」 「…んだよ。」 「今日のライブ、サクッと成功させようね。」 「んなのたりめーだろ。なあ」 「おう」 「あ…後、今日は何があっても演奏は止めないでね。」 「へいへい。でもあんま変なことしでかすんじゃねえぞ。」 「あーい」 この時からあたしは二人に何かを伝えようと思っていた。 「うっし、じゃあ行こうぜ。」 「おう」 「いえーい」 あたしたちはとりあえず「張り切っていきまっしょーい」と言って、ステージへ出た。 ・ ・ ・ 銀時と晋助はあたしの痛々しい夢を唯一馬鹿にしないでいてくれた。それどころか「俺らも一緒にやりてえなあ」なんて言ってくれた。その言葉であたしはどれだけ強くなれたか。どれだけ涙が出そうになったか。きっと彼らは知らないと思う。彼らはそういうやつだ。愛すべき、大馬鹿野郎だ。だから今、二人に伝えたい。だって大切な人に気持ちを伝えられないでロックスターになるなんて言ってらんないから。 そのときあたしは、彼らと作り上げた音楽が鳴り響いている中で、無性に大声を張り上げたくなった。 だから曲の間奏でスタンドからマイクをぶん取り、大きく息を吸った。 「あたしはーっ!!」 いきなり大声を出したので銀時と晋助がぎょっとした顔でこっちを見てきた。でも、音楽はちゃんと続いていた。 「もう!大学三年生になっちゃったけど!ロックスターになりたいなんて青い夢を掲げている!多分普通の人だったら!こいつ、いい歳して何考えてんだって馬鹿にすると思うけど!けど!あたしにはその夢を一緒に追いかけてくれる大事な人たちがいて!毎日訳分かんないくらい楽しくて!まあ、不安なんて一つも無いって言ったら嘘になるけど!こいつらと一緒にいれるから!いっちょ前に自分は普通の人達よりも幸せ者だと自惚れている!だから!今日は!そいつらに自分の気持ちを!一欠けらも余さずに伝えたいの!!」 あたしはくるっと後ろを向きニカッとアホみたいに笑った。 「銀時!晋助!いっっつもありがとう!あんたらほんと最高だよ!もう、超超超愛してるっっ!!!」 曲が終わると同時にあたしがそう言い切ると、銀時と晋助はニタッと笑いながら同時に「そりゃあこっちの台詞だ馬鹿野郎。」と言った。あたしたちの青くさい音楽はまだ始まったばかりだった。 無敵な歓声は 銀河からも鳴り響く |