初恋の魔法にはとくべつな効力がある、らしい

ちいさいころ、泣き虫だったわたしはよくぬいぐるみやかみどめをとられておとこのこたちにいじめられていた。そのいやがらせに対してわたしが涙をぽろぽろと流していると、決まってたすけてくれたのは佗助だった。スーパーマンみたいにかっこよかった佗助はよく呆れたようにわらって「…ったく、おまえはおれがまもってやるんだからなくんじゃねえ。」と言ってくれた。そのキザですてきすぎることばに幼いながらもわたしの心はときめき、そして恋におちた。

そんなきらきらした宝石のようなおもいではずうっとまえのものだけど、わたしのにとってはとてもとても大切なはなし。彼はもうとおくの街に行ってしまったけど、わたしに向かって「かならずこの街に戻ってくるから」と言った。

…だからわたしはいまでもこのことばをつよく、つよく信じている





淡い星が瞬く夜、わたしはピンヒールを鳴らしながら路地裏をあるいていた。その日の夜はともだちとイタリアンをたらふく食べたあとだったので少しよたよたしているといきなり頭の軽そうな三人の兄ちゃんA、B、Cがわたしに向かってペラペラと話しかけてきた。

「ねえねえそこのお姉さん、いま暇だったりする〜?」

「いえ全然。」

「え、暇?おっしゃー!まじ奇遇だね!俺らもちょー暇なんだっ!」

「え、君あたしのはなし聞いてる?っていうかその耳はかざりなのかな?」

「じゃあ俺らとあそぼうよ!」

「は、話がかみあってない…けど、とりあえずいやですごめんなさい。ほかのお姉さんでも誘ってくださいさようなら。」

「えー、そんなツレないこと言わないでよ!俺らお姉さんのこと気に入っちゃったのっ!」

と、いかにもあほそうな言葉に対してわたしは「いま会ったばかりなのになにを言ってるんだこの兄ちゃんたちは」とぼんやり思っていると突然兄ちゃんの一人がわたしの腕をグイッと引っ張った。

「いっ…!」

つかまれた腕が予想以上に痛く、わたしは瞳にうっすら涙をためた。そしたら兄ちゃんAが「かっわい〜!」などと言って自らのむねにわたしを引きこもうとした。ちょ…!これは本格的にやばい、ぞ!

「た、たす…!」

「おい兄ちゃんたち、俺の連れに手、ださないでくれる?」

突然、わたしの声を遮って凛とした声が聞こえたかと思ったら後ろからだれかにぐいっと引っ張られて肩を抱かれた。暗くてかおはよくみえない。けど、この人わたしのこと連れって言ったよね?え、もしかして知り合い?だ、だれ…?

「てめえこそ手出すんじゃねえよ!ぶっころすぞ!」

わたしがもんもん思案していると不穏な叫び声が聞こえてきたた。わたしはその叫び声にびくびくしているとすぐ横から男の人が「お前、むかしから暴力はきらいだったよな。」と囁いてきた。…え、むかしから?

「だから逃げるぞ!」

その声が耳に届いた瞬間、わたしは走りだした男の人に引っ張られて必死に後についていった。最初の方は「待てこのやろー!」という声が後ろから聞こえてきていたが、男の人が人混みの中や狭いみちをするするっと抜けていったのでどんどん声はちいさくなりやがて聞こえなくなった。不覚にも男の人と走るのが楽しく思えてしまった。

「はあっ…大丈夫か?」

男の人は、道端で息を整えながらそうたずねてくれた。さっきまでは男の人の声を気にしている暇がなかったから気がつかなかったけれどこの人、すごくきれいな声してる…。

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」

わたしはお礼の言葉を言い切ると同時に無意識のうちにへたりこんでしまった。今更ながらさっきの出来事が怖くなってしまいぽろぽろと涙を流してしまった。

「っ、す…すみません!」

急に泣き出してしまったことが恥ずかしくなり照れ隠しをするようにごしごしと目の下をこすっていると男の人はわたしの前に座りこんで優しくわたしの手を掴んだ。

「…ったく、お前はおれが護ってやるんだから泣くんじゃねえ。」

「…え、」

わたしはどこかで聞いた言葉にバッと顔をあげた。キザですてきすぎるその言葉にむかしのようにときめいた。あ、もしかして…!

「佗助っ!!」

わたしが元気よくそう言って抱きつくと彼は「迎えにきた。」と言った。彼はむかしみたいに呆れながら、けれどむかしよりも綺麗に笑っていた。



もう離れないよ、
離さないよ

110325