ギシ、とベッドが軋んだ。
うつ伏せになった静雄は少し硬い枕に顔を埋め、手繰り寄せたシーツをぎゅっと握り締める。
突き出すように上げられた腰を引き寄せ、散々指で馴らされた秘部にはち切れそうな程膨張した性器を宛がうと、
意外に華奢なその肩が、震えた。

「…静雄、つらかったらちゃんと言えよ」
「……は、い…」

少しくぐもったその声はどこか弱々しくて
果たしてこのまま行為を続けて良いのかと少し、不安になった。

「っ…トムさ、……あっ」

先端を軽く押し挿れる。
真っ赤に充血した秘部はまるでそれを拒むようにきつく閉ざされ、苦しいのか静雄の声が張り詰めたものに変わる。
矢張り指で馴らしただけでは無理なのだろうか、俺より一回り大きい筈の彼の身体が緊張で強ばる。
諦めた様にはぁ、と溜息を吐く。僅かに入りかけていた性器を抜き、少し癖のある金の髪に手を伸ばした。

「…今日は止めとこう、な」
「えっ…」

ふわりと柔らかな髪を撫でると、不安げな瞳がゆっくり振り向き俺を見上げた。

「なんで……俺、ダメでしたか…」
「いや、まぁ…気にすんな。初めてですんなり入るとも思ってなかったし…」
「………」

顔だけこちらに向けてうつ伏せのままのその身体に、ぴたりと密着する様に覆い被る。
静雄の唇が何か言いたそうに動くが、気にせず耳たぶに舌を這わせた。
途端にびくりと肩を震わせ瞳を瞑る。わざと音を立てる様にぴちゃぴちゃ舐めると、逃げる様に再び枕に顔を埋めた。
そんな反応がたまらなく、愛しい。
唇を離し、金髪の間から覗くうなじへ顔を寄せる。

「…俺はさ、お前に無理させたい訳じゃないから」
「……はい…」
「焦る事はないし…ゆっくり時間を掛けてさ、してぇなって思う」

だから今日はこれで終わりな?
あやす様な優しい声音でそう告げると、静雄は言葉を飲み込みやがて小さな声ではいと答えた。




いつからだったか、この男に好意を寄せる様になったのは。
出会って一月はいかにもといった「上司と部下」だった。桁外れの力を持つその肉体に内心恐れすら抱いていた。
しかし共に過ごす内に段々と、彼の本質が見えてくる。
怒っている時は正直手も付けられないが、それさえ無ければ普通の…いや、その名前よろしく本当に大人しい青年だ。
半年も経って俺が扱いに慣れ出した頃からか、更に彼の印象が変わる。俺が名前を呼ぶとやけに柔らかな表情を浮かべる様になった。
恐らく懐いているのだろう、悪い気はしない。
でかい図体しているくせにまるでワン公みたいに尻尾振って後をついてくるこの男を、その時初めて可愛いと思った。

最初にキスを仕掛けたのは俺だったが、早かれ遅かれ向こうもそんな関係を望んで居たのだろう、素直に俺を受け入れた。
そうして何度もキスを交わし、時々戯れの様な触れ合いを繰り返し、今日ようやくここまで辿り着いた。実に長かった。




だが…予想通り、事はすんなりとは運ばなかった。
男は当然初めてだという静雄のそこは、どう考えても俺を受け入れられる余裕がなかったのだ。
何も焦る事などない、ここまで時間を掛けてきたんだから今回も時間を掛けたって問題はないだろう。
正直やる気満々になってしまった息子の元気さが、悲しいところではあるが。

「よし、シャワー浴びて今日はもう寝るか。先いいぞ」

そっと静雄から身体を離し、くしゃと髪を撫でそう促す。
だが彼は視線だけをこちらに寄越し、一向に起き上がろうとはしない。

「…静雄?もしかして身体つらいんなら、もうシャワー浴びずに寝てもいいぞ?」

伏せられた瞳は、ゆらゆらと揺れている。
きゅっと唇を結び今にも泣きだしそうな弱々しいその様は、およそ初めて目にする表情だった。
やがてもそりと起き上がり、ベッドの上で長い足を折るように座り込む。
どうやら身体がつらい訳ではないらしい、ほっと息をついて立ち上がろうとした。
だが、腕を掴まれくいと引っ張られる。常人よりは少々強い力だった。

「…トムさん、あの…」
「ん、なんだ?」

仕方なく静雄の隣に腰を降ろす。
視線がむき出しの性器へつい行ってしまい、思わず視線を逸らした。
腕は未だ掴まれたまま、下を向いて絞り出す様に彼は言葉を紡ぐ。

「…俺、トムさんの事好きっす…ほんと、好きなんです」
「うん、知ってる」
「…それで、あの…なんつーか…」

言葉が上手くまとまらないのか、もどかしそうに唸る静雄。
何か言ってやるべきかと思ったが、今はとりあえず彼の言葉を大人しく聞くべきだと思い口を噤んだ。

「…俺、こんな身体だから…ちょっとした事で、相手を傷つけちゃうじゃないですか…」
「うん」
「でも、俺は傷ついても…割りと直ぐ治りますし…」
「そうだなぁ」
「だからって別に傷つけられてもいいって訳じゃないんすけど……その、あー、なんて言えばいいんだ…」

もごもごと口を動かす。
しばし無言の後、顔を上げてぐっと俺の瞳を見つめてきた。

「俺、トムさんになら…痛くされても、いいっすよ」
「……へ」

掴まれたままの腕を更に引かれる。
指先が、僅かに熱を帯びた彼の性器に触れる。
やめろ馬鹿お前、俺を煽るな。傷つけてまでしたくなんかないんだよ。
思うが言葉には出来ない。
どうしたらいいものかと考えている間に静雄はじりじり俺に顔を寄せる。
気づいた時には俺の視界に、天井を背に俺を見下ろす静雄の顔があった。

「トムさん…」

切羽詰った、今にも泣き出しそうな目をして俺の名を呼ぶ。
俺の上に跨った静雄は、未だ熱を孕む俺の性器を擦る様に腰を降ろす。
ちょっと待てこれは相当やばいんだが。
さっきまで腕を掴んでいた彼の手が、俺の性器をやわりと握る。
先端が秘部に押し当てられ、静雄はその敏感な場所をひくりと振るわせた。

「すみません、俺、もう…」




我慢出来ないんです

だから、ください。




驚くほど色を孕んだ小さな声が、俺の耳を擽る。それは俺の理性を吹っ飛ばすには十分な威力だった。
身体を起こし、程よく筋肉の付いた尻をやわやわと撫でる。
裂くようにその肉を引っ張ると、きつく閉ざされていた秘部がぱくりと口を開けた。
中を押し広げる様にぐりぐりと先端を押し付ける。情けないかな溢れ出す先走りが、卑猥な音を立てながら肉壁を濡らした。
俺の性器を支えていた静雄の手が不意に離れ、腹の上に置かれる。
突き上げる様にぐっと挿入すると、あっと甲高い声を上げてその身体が跳ねた。
かろうじて先端を飲み込んだそこを、ギチギチと割り込む様に挿し進める。互いの額に汗が滲んだ。

「きついか?」
「ん…は、い」
「そうか…でもごめんな、今度は止めてやれねぇや」

がくがくと揺さぶる様に突き上げる。やがて根元まで飲み込んだ秘部からは甘い音が漏れ始めた。
腕を支えにしていた静雄の身体がくたりと倒れる。俺の肩に顔を預けて荒い息を吐き出すその姿が、たまらなく愛しく思えた。
全て飲み込んでも矢張りきついのか、漏れる声は時々強張る。
それでも中を激しく犯し続ければ、やがて全てが情欲の声音に変わった。

「あ、あっ…トム、さ…」

柔らかな金の髪が鼻先をかすめる。
その擽ったさに思わず俺は笑いを漏らした。
顔を真っ赤にしながら快楽に耐える静雄は、熱に犯された瞳で何事かとこちらを見上げた。
視線が交わる
何でもないよと微笑みかければ、その表情が柔らかく綻ぶ。
ああやっぱり可愛いな。
腰を強く掴み、その身体の奥深くへと俺は欲をぶちまけた。





「…ごめん静雄、流石にやりすぎた」
「いや…別に、いいっす…」

ベッドにぐたりと横たわる静雄は、顔を動かすのも億劫なのか伏せたままのくぐもった声で答えた。
初めてだというのに、調子に乗って何度もしてしまった所為で
いくら頑丈な肉体を持っているとはいえ、終わってから彼はずっとこの有様である。
一応タオルで身体を拭いてはやったのだが、これまた調子に乗った所為で
中に吐き出した精液は、そのままなのであった。

「えっと、起き上がれるか?中のやつ掻き出さねぇと…」
「すみません…きついんで…」
「…お前そのままだと腹壊すぞ」
「まじっすか」
「ま、とりあえずシャワー浴びて来い」

静雄の頭をくしゃりと撫で、ベッドサイドに置かれた煙草に手をかける。
箱が余りにも軽かったので中身が切れているかと思ったが、幸い最後の一本だった。
咥え、火を点ける。肺に入るいがいがとした感触が何だか酷く落ち着く。
正に至福の時だとでも言う様に、満足げに息を吐き出すと
やっと重い腰を上げのそりと起き上がった静雄が、こちらを見ていた。

「…ん、どうした?お前も煙草吸いたかったか?」
「あ、いえ…その」

何だか気まずそうに、床に散らかった服を手にする。
今から身体を流すというのに一々服を着るのは、律儀なんだか何だか。

「…案外、普通っすね」
「ん?」

一瞬静雄が何を言いたいのか分からなかった。
が、思考をぐるりと巡らす。そういえばこいつ、割と純情な部分があるからなぁ。
吸いかけの煙草を灰皿に置く。
背を向けてシャツを羽織る静雄の首根っこをぐいと引っ張った。

「しーずおっ」
「ぅわ…っ!?」

体勢を崩した馬鹿でかい図体を抱き留め、わざと音を立ててちゅっと口付ける。
突然の事にぽかんと目を見開く静雄は、一呼吸の後やっと理解したのか顔を赤らめた。

「可愛いなぁお前、そうかそうかこうしてほしかったんだなー」
「ちが、いや違わなくもないっすけどっ…」
「どうせなら俺が丁寧にナカ掻き出してやろうかー?」
「っ…トムさん!!!」

顔を真っ赤にして眉を吊り上げるその表情はとても子供っぽくて。
身を翻しシャワールームへと逃げていったその背中が、可愛いなぁと思った。
全く、さっき俺を翻弄してくれたあの姿はどこへ消えたのだろうか。

「…あと1回くらいしといても良かったな、惜しい」

にやにやと緩んだ口に再び煙草を咥える。
キスの後に吸う煙草は
先程と同じ味の筈なのに、何だかやけに苦く感じた。




first night attack








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