口にしても届かない


あれから幾日か過ぎた。
彼はあの場所に現れることは無かった。

桜は見頃を過ぎ、所々に葉をつけていた。
彼は今どこで何をしているんだろう。
毎日そんな事を考える。

昼間はあまり外には出ないが、時々許可を貰って出る事があった。
今は家にいてもぼーっとして、すぐ彼のことを考えてしまうから
外に出て気分転換でもしようと思ったのだ。

日傘をさし、外に出る。

太陽は真上から日を地上に浴びせていた。
行き交う人々は用事があるのか足早に過ぎていく人もいた。

公園では子どもたちがはしゃぎ走り回っていた。
その中に一人、大きな白い犬を連れた見慣れた少女に声をかけようとし、躊躇した。

似た顔を見た気が…。
夜桜の下で会った彼の顔によく似ている。

「しぐれ!久しぶりネ!」

こちらに気づいた神楽ちゃんは笑顔でこちらに走ってくる。
二人並んでベンチに腰掛ける。

「浮かない顔してるネ。なんかあったアルか?」
「私、そんな顔してるかな?」

はぐらかすように笑ってみたが彼女はじっとこちらを見つめたままだ。

「…あのね、神楽ちゃんによく似た人に会ったんだ」

まだ桜が咲いてる時だったかな。
朱色の髪に三つ編みの、青い瞳の人だった。

そう言うと神楽ちゃんは元々丸い目をさらに大きく丸くした。

「しぐれ…。悪いことは言わないアル。そいつに会うのはやめるヨロシ」
「…知ってるのね。教えて欲しいの、あの人の事」

ぽつぽつと語られたのは彼の事。

宇宙海賊春雨の幹部である事。
上司も部下も家族も誰でも見境なく手にかける事。
強者以外興味がない事。

実兄である事。

「しぐれはただの女の子アル。だからこそ、危ない事に首を突っ込んでほしくないヨ」

不安げに揺れる瞳が本気で心配していることを告げている。
本当に会ってはいけないと。

「ありがとう、心配してくれて」

でも次いつ会えるかもわからない、約束も何もしてないもの。
そう言うと幾分ほっとしたような表情をした。

「じゃあ約束ネ。もし偶然会っても他人のふりしてやり過ごすアルよ」

そう言ってお互いの小指を絡める。
きっと針千本飲まなきゃいけなくなるんだろうな…。
そんな事を考えながら。


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