桜舞う夜に


陽はとうに暮れ、辺りは夜の静けさに包まれていた。

ここの桜並木は夜遅くまでライトアップをしている為
昼にあまり出られない私でも桜を楽しむことが出来る場所だった。

昼はもっと色鮮やかで綺麗な桜だろう。
しかし夜の月明りと街灯に照らされた桜は、妖しく美しく咲き誇っていた。

ひらりと舞った1枚の花弁を掌で掬いあげた時
ふと誰かの視線を感じた。

顔を上げると、そこには朱色の髪を三つ編みにした、整った顔立ちの少年がこちらを見ていた。
澄んだ青い瞳に思わず見惚れてしまう。

目が合うと彼はゆっくりとこちらに近づいてきた。

「1人かい?」
「えぇ、貴方も?」
「まあね。誰もいないと思ってたけど」
「私も、誰も来ないと思ってた」

奇遇ね。
そう言うと彼は笑いながらそうだねと答えた。

その後は特に会話をする訳でもなく
ただ隣で夜桜を眺めた。

「そろそろ帰らなくちゃ。」
「送って行こうか?」

彼は優しくそう申し出てくれた。

「すぐそばだから平気よ。ありがとう」
「そっか。じゃあ名前教えてくれないかな」

彼は神威と名乗った。
口の中で声に出さないように彼の名を噛み締める。
忘れないように。

「また、会える?」
「きっと会えるよ。この近くに君はいるんだろ?」

会えるとそう言ってくれたことに僅かに胸が高鳴った。
嬉しさのあまり声が出せず、ただ頭を縦にふるしかできなかった。

「それじゃあ、おやすみなさい。」

そろそろ本当に帰らなければ家の人にばれてしまう。
後ろ髪を引かれる想いで私は彼に背を向けた。


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