||| plus alpha



「ねぇねぇ、ノボリ!」
「なんでしょう?」
「なんでさっきの子達に、手加減したの?」

クダリの問いに、思い返すのは先程手合わせをした、男女一組の子供たち。
出勤前にターミナル前で出くわした『お客さま』。

「・・・まだバトル経験の浅い、トレーナーとお見受けしましたので」
「スーパーとまでは言わないけどさ、せめてマルチトレインの手持ち出したかったよ」
ボヤキながら歩くクダリの後ろで、ノボリは静かに先程の戦闘を思い出していた。
普段は使わない手持ちのポケモン。接待用と携えている、レベルの低いパートナー。

それでも

伝わる気迫、熱の籠もった視線。
心に残るのはスーパートレインと変わりのない高揚感。

「でもさ、何でだろ」
言葉を区切り、クダリは足を止めて振り向く。

「本気の手持ちじゃなくてもさ」
「楽しかった、でしょう?」

思い出すのは鉄の天井ではなく青い空。排気ガスではなく砂煙。相手も自分も、まだ育ちきっていないポケモンを扱って。
いつか感じたことがある、勝利も敗北も楽しんでいたあの頃。
もう戻れないのは、知っている。立場は、経験は、思い出と違って色あせないから。

また戦いたいなぁと、クダリは言う。
そうですね、とノボリは相槌を打つ。

次に戦うときは、その戦いの意味も変わってしまうけれど。


(初々しいトレーナーを見て懐かしむ)

June 26, 2012 02:03
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