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小ネタ FGO3


 カルデアで特殊召喚された英霊でも神霊でもない元人間のみょうじなまえ。ここではない世界では人類最強と並ぶまではいかなくてもそれなりにチートっぷりな強さを発揮していたが、ここでは人間の域を出ない。だいたいビーム打てたりだとか絶対殺す槍を穿ったりとかなにそれファンタジー? ってやつだ。それでも普通の人間よりかは人間離れをしているが、カルデアで召喚された有名な英霊達に比べたら可愛いものである。不思議な縁で呼び出されたわけだが、心優しいマスターとそんなマスターに呆れつつもこちらを慮ってくれる英霊達に少しでも恩返しが出来るようにと今日も今日とて素材狩り周回に付き合っていた。敵がバーサーカーのみということもあり血気盛んなサーヴァント達と周回のお供である孔明でぐるぐる敵を狩りまくっていた頃にそれは起きた。

「マスター、前方500メートルに未確認のエネミーを発見。どうしますか?」

 身の丈ほどの盾を軽々と振り回していたマシュがマスターである藤丸立香に問い掛ける。いつものレイシフトしなれた場所で出現するエネミーはゴーレムだけのはずだが、確認されたデータはゴーレムのものではないらしい。通信から聞こえるダヴィンチちゃんも不思議そうな声音で考えている。

「レアなエネミーってことかな? 素材落としてくれるかな?」

 言い訳をするならばその時は素材を集めるために林檎を齧ってひたすら同じところをぐるぐると回っていたのだ。マスターの双眸が素材でいっぱいになり、また諌める要因である諸葛亮孔明も周回のしすぎて疲れていたのだ。血気盛んなサーヴァント達は未だ見ぬ敵だと言えば喜び勇んで狩りに行くだけだ。つまり、誰も止める者がいなかったのだ。マスターの是の掛け声と共に我先にとサーヴァント達が駆け抜ける。最近暴れ足りなかったランサーの李書文とベオウルフが駆け出した。それにやれやれと応じるように孔明がバフをかけていく。なまえも好戦的ではあったが二人の殺気と熱量に苦笑いを零しつつ孔明とマシュと共にマスターの周りを警戒する。宝具を展開した二人は華麗にエネミーを薙ぎ倒し、消失する体から素材を剥ぎ取っていく。荒々しい戦いぶりではあったが、その手つきは酷く丁寧でギャップに思わず笑ってしまいそうだった。枯渇気味であったQPと共にたくさんの素材が剥ぎ取れてマスターが喜びの声を上げたその時、地上から何か得体の知れないものが這い寄る気配がする。それにいち早く気付いたのはなまえであった。立ち位置がいちばんそれに近かったのもあるのだろうが、瞬時に気付くとそれがマスターを狙っていることは一目瞭然であった。土の中から這い出たそれは触手のような形状をしており、一つの触手は毒でも蓄えているのかたっぷりと膨らんでいた。

「マスター!」

 声に出すと共に駆け出し、彼女を抱き上げるとそのまま一番遠くにいるであろうベオウルフへと思いっきり投げ付けた。彼女の驚いた声に申し訳なさを覚えたがそれどころではない。なまえの直感が伝えていた。それはやばい、と。マスターを投げ付けるのと同時に触手から大量の粘液が吐き出され体全体に掛けられる。酸のようなものかと身構えたが体を焼くような痛みは訪れない。べたべたと肌に纏わりつく感覚が気持ち悪く顔を顰める。僅かに口に入ったのかうえっと声を漏らしながら手にしたナイフでその触手を木っ端微塵に切り捨てた。

「なまえさん! 大丈夫ですか?」

 マシュの心配する声が後方から聞こえた。文字通り木っ端微塵に切り捨てたれた触手は呆気なくその体を消失させる。素材も何もないのか。汚れ損ではないか。口の中に残る甘さとも苦味とも違う不思議な味に眉を寄せながら、ぺっと唾を吐き捨てた。

「ん〜大丈夫〜。マスターごめんね〜、平気〜?」

 ベオウルフの腕の中でマスターは大きく手で丸を作り「なまえちゃん大丈夫!?」。と心配の声を上げていた。流石特異点を修正してきたマスターだ。ちょっとやそっとのことではへこたれないのだろう。服が粘液で汚れて肌に張り付く。咄嗟に眼前は庇ったお陰で目には入っていないが髪までべとべとだ。歩み寄ってきた孔明がポケットに入っていたハンカチをなまえに渡す。

「汚れちゃうよ?」
「構わん。それより体に異常は?」
「特にないんだよね〜。それより今はシャワーを早く浴びたい」
「そうだろうな。君がこんな状態じゃこれで帰還だろう。帰ったらゆっくりと休むといい」
「うん。そうするよ〜」

 借りたハンカチで顔を拭う。前髪を掻き上げ滴り落ちそうになるのを防いでいればベオウルフや李書文と共にマスターがやってきて、心配そうに顔を覗き込んだ。大丈夫だよ、の意味を込めてなまえが笑ってみせれば少し表情を柔らかくし、通信先のダヴィンチちゃんの帰還の旨を伝える。見慣れないエネミーの出現が原因なのかレイシフトが手間取っているという言葉を聞き流しながら靴の中までじっとりと濡れた感触に思わず眉根を寄せた。はあ、と溜息を零そうとした瞬間、頭の中で何かが爆ぜた。



 なまえがその場に崩れ落ちたのは、ダヴィンチちゃんとの通信が終わってからだ。少し時間がかかる一五分ほど待っていてくれ、と慌ただしい声音で通信が切れ、汚れきった彼女にハンカチを貸そうと藤丸立香が近付こうとした瞬間であった。先程まで普通に立って会話をしていたなまえは尋常ではないほどの汗を浮かべ荒い呼吸を繰り返していた。頬を赤く染めた姿に発熱をしているのかと、手を伸ばそうとした立香に「触らないで」。となまえの冷たい言葉が投げ掛けられた。普段から誰に対しても柔らかい物言いをする彼女がこうやって言葉を吐き出すのは初めてのことだった。

「なまえ、ちゃん……?」
「ッ、は、ごめん……、マスター、でも、だめ。 さわっちゃ、だめだよ……っ。多分、さっきの、この液体が、原因だから、あまり、近くに、来ちゃ、だめ……」

 体を震わせながら一つ一つの言葉を紡ぐ彼女の姿は酷く痛ましく、そして何故だかとても艶やかに写った。そういったことに疎い立香でさえ底知れない色香に当てられそうになりそうだった。マスター彼女から離れた方がいい。立香の返事を聞かずに孔明は彼女の肩を掴み数歩後退させた。なまえは自分の体を抱きかかえるように小さく縮こまるとぶつぶつと何かを呟いていた。その様子をただ、黙って見ることしか出来ない立香はもどかしい気持ちで早く早く、とレイシフトの時を願っていた。しかし、時計を見てもまだ時間は数分しか経っていない。何も出来ない歯痒さに下唇を噛んだその時だった。なまえがゆっくりと立ち上がり、項垂れたまま一歩足を踏み出した。「なまえちゃん?」。マスターが彼女の名前を呼ぶ。なまえはゆっくりと顔を上げる。恍惚とした表情を浮かべた彼女は殺意を滲ませていた。

「がまん、がまん、しなくちゃ。でも、だめ、もう、だめ。したい、したいの……っ、がまん、できない、もう、いますぐに、したい、したい、……ーー殺したい」

 焦点の合わない瞳が美しい赤色を捉える。目が合えばあとはもう崩れるだけであった。

「止めるなよ」
「ほどほどにな」

 李書文とベオウルフが短い言葉を交わす。言い終わると同時に赤はなまえの元へと風のように駆け抜け、殺意を滾らせたなまえの体を宙へと浮かす。なまえは嬉しそうに笑みを浮かべながら体を反らせ空中で一回転をしながら、赤を視界に埋める。赤、赤、赤。一面の赤。

「あ、はは。うん、殺す、殺す、……ーー殺す」
「呵々、難儀よな。手伝ってやるとするか」
「ははは。殺す、殺す、ぜんぶぜんぶ、殺してやる」
「良い眼をする。そら、儂を愉しませてみろ」

 李書文の振るった槍の刃先がなまえの首を狙う。軽い身のこなしでそれをいなすと今度はなまえが素早い動きで懐へと潜り込もうとする。朱が塗られた眼を細め楽しそうに笑いながら殺気と殺気を混じり合わせる。ああ、少しは楽しめそうだと、李書文は殺意の篭った笑みで彼女の心臓を狙った。

「……あの二人何してるの?」
「あ〜〜、殺し合い?」
「なんでそんな冷静なの!? ベオウルフ止められないの?!」
「俺が入ってもいいが、多分三人でやりあうだけだと思うぜ」
「う……、せめて、大怪我しないようにしてほしい……」
「……まあ、死にはしないんじゃねぇの」
「マスター! ダヴィンチちゃんからの通信だとあと数分でレイシフトが始まるようです」
「それまでにあの二人が終わればいいがな」
「……どう思う? ベオウルフ?」
「さあな。でも、そろそろだと思うぜ」

 ベオウルフの読みは当たっていた。目にも留まらぬ速さで攻防戦を繰り広げていたが終わりは突然やってきた。肌に突き刺すような殺意がふっと軽くなり、足取りが一瞬重くなる。その一瞬を見逃すほど李書文は優しくない。鳩尾に一発強いのを撃てばなまえは眼を見開き呻き声を上げながらその場に蹲る。

「起きたか」

 その音になまえは顔を上げる。焦点の合ったいつもの笑みを貼り付けた締まりのない表情だ。先程まで滾らせていた殺気は収まっており、幾分か落ち着いた呼吸で彼女はいつものようにへらりと笑った。

「せんせい、ごめんなさい」
「童のように手の掛かる奴よな」
「うん。ありがとう、せんせい」

 赤らんだ頬と汗と粘液でぴったりと服が張り付いた姿は彼女の体のラインをくっきりと表している。正気に戻ったなまえであったが、何かに耐えるように唇を噛みときおり体を震わせながら息を吐き出していた。
“ごめん! おまたせ! レイシフト開始するよ!”
ダヴィンチちゃんの明るい声が響き、なまえは安堵する。しかし、体を犯す熱は絶え間なく渦巻いており、必死に体を押さえ込むようにしてその熱が過ぎるのを待っていた。立てるか、と尋ねられたが足に力が入らない。ふるふると首を横に降れば、体に何かを巻き付けられそのまま肩に担ぎ上げられた。

「せんせ、っ」
「喋るな。辛いのだろう、あと少しの辛抱だ」
「ん、ごめ、んなさい」
「呵々。何を謝る。お主との果たし合いは中々に愉快だったぞ」

 李書文の赤いシャツに身を包まれる。彼の匂いを感じて少し安心するのと同時に浅ましく体の熱が高ぶるのを感じる。ああ、いやだ。本当に嫌いだ。自身の浅ましい女の部分を直視してしまう。昔を思い出してしまいそうになる。唇をぎゅっと噛み締めながら孕む熱を必死に逃がそうとする。早く、終われと願うのと同時にレイシフトが開始され、見慣れたカルデアへと無事着く。すぐそのまま、医務室へと直行し、事なきをえるみょうじなまえの、そんなカルデアでの一幕であった。

「凄いね、彼女。こんな数値見た事ないよ。普通の人間なら発狂してるね。立香ちゃんよかったね。いくら君が耐毒スキルがあったとしてもこれはちょっとわからなかったよ」

 マスターである立香には知る権利があるとダヴィンチちゃんから呼び出されてなまえの現状を教えて貰った。所謂、媚薬成分が含んだ粘液を頭から掛かり、その有り余る熱を脳が自身の体を守るように、その熱を殺意へと転換させたらしい。体が疼くのと同時に、殺したくて堪らなくなってしまう、だとか。その殺意を発散させるために李書文が彼女と本人曰く模擬的に殺し合いをすることによって熱を逃がしたのだ。最終的に残ったのは殺意ではなく、媚薬の本当の役割である催淫効果であり、レイシフトが始まってから点滴が効くまでの間彼女は比喩なしに常時イキっぱなしだったわけだ。と、そこまではマスターである藤丸立香には言わなかったが何重かにオブラートに包んで事を話せば頬を赤く染めながらも「なまえちゃんは大丈夫?」と心配そうに扉の向こうを見やった。
「毒抜きの点滴をしたし、今日一日寝かせれば大丈夫だよ。数値も今は正常値だ」
その言葉にほっとした立香を部屋へと帰らせると、ダヴィンチちゃんは扉を開けて寝ているなまえの前髪に触れる。

「まったく、無茶ばかりしちゃだめだよ」

 彼女の間延びした返事が早く聞けますようにと、点滴の速度を緩やかにして、その場を離れた。