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小ネタ FGO2 キャットちゃんと、

 鼻歌を口ずさみながら、廊下を歩いていると向こう側から誰か歩いてくる気配を感じた。慣れ親しんだその気配に思わず口角が上がり、歩くスピードを少しだけ早める。橙色を視界に捉えるとわたしは一目散に地を蹴って、彼女の目前に飛び込んだ。

「まっすったー! さあんっ!」
「うわあっ!?」

 漢らしい声を上げて驚く彼女はとても可愛らしい。わたしの姿を確認すると眉を下げて呆れた表情で溜息を零した。

「びっくりしたよ、もう」
「ごめんなさい。マスターさん見かけたから、つい」
「今度からは驚かせないでね」

 細い腰と柔らかな体を抱き締めるわたしをあやすように頭を撫でる。そんなんだから、わたしを含めたマスターガチ勢が付け上がるんですよ、と思いながらもう一度彼女を強く抱きしめた。柔らかい胸を堪能するように頭を傾げると、頭上から仕方がないなと呟きが聞こえてくると共に、よしよしと頭を更に撫でられる。幸せ、おっぱい、大好き、マスターさん最高。これはあわよくばマスターさんといちゃこら出来るのでは? とわたしは期待を込めて上目遣いで彼女を見ると、聖母のような優しい眼差しで微笑んでいた。ああ、理想郷はここにあったんだ。と、幸せと少しの下心を噛み締めていたところを後ろから誰かに踏み付けられた。

「抜け駆けは許さないのだワン」
「キャット……? どうしたのそれ」

 華麗にわたしをスルーするおふたり。おいおい、なんなんだ、この体勢。腰が痛いぞう。

「ふん。ご主人。聞いて驚くが良い。なんと、このアタシがマスターの為にマスターの好きなおやつを作ったのだぞ。これはもうご主人から感謝の抱擁を賜っても良いのでは?」

ふりふりのメイド服をはためかせ、マスターさんへと抱擁を強請るように手を伸ばして尻尾をふさふさと揺らしている。抜け駆けと言っていたのだが、わたしの上に乗っかっていることすら忘れたタマモキャットは上機嫌にマスターさんに頬を擦り寄せていた。

「ほんとう? 嬉しいな。じゃあ、折角だからお茶にしようか。キャットも一緒に付き合ってくれる?」
「勿論。ご主人のおはようからおやすみまでを世話するのがアタシの役目である。ささ、早く手製のキャロットパイを二人っきりで優雅に舌鼓するとしよう」

 そのままわたしの存在を無視して二人っきりのいちゃらぶ空気を纏おうとしていたので、咳払いを思いっきりしてやった。あ、とマスターさんの声が聞こえてきたのでわたしの完全勝利である。んん、と不思議そうな声が聞こえてきたので、こいつ本当にわたしの存在を忘れていたらしい。絶許。

「キャットちゃん、そろそろ降りて欲しいな」
「ふむ。いい足場と思っていたが、なまえだったのか。とても踏み心地が良かったぞ。これからアタシはなまえの上で休むことにしよう」
「あっはっは。面白くない冗談だな。今度キャットちゃんにあげてたニンジンはわたしが食べることにしよう」
「むむ。それはダメだ。動物虐待だ。愛護団体に訴えられるのだワン」
「ふたりは仲良しだね」

 マスターさんの呑気な声に毒気を抜かれてわたしは陰ながら溜息を零した。ちなみに、キャットにニンジンをあげているのは、わたしが食べれないとかではない。ただ横からじーっとニンジンを凝視する彼女の口に気まぐれに放り込んだらそれが未だに続いているというだけだ。それを察してかわたしの食事が配膳されるときはニンジンが多めになっている。どういうことだよエミヤ。

「パイを食べたら、散歩の時間だ。ご主人」
「別にいいけど。首輪を持つのはなぁ……」
「怪しいプレイみたいだよね」
「……ご主人が望むのならそういうことをするのも吝かではないぞ?」
「しない! しないから! なまえもそういうこと言わない!」
「むー。その際にはぜひ混ぜて貰おうと思ったのに……」
「そういうのは求めてないからね」

 アタシはいつでも大歓迎だぞ。とキャットはウィンクをして、マスターさんに星を飛ばした。近くにマスターガチ勢(清姫)がいなくてよかったと思いながら、橙色の髪に手を伸ばした。

「じゃあ、散歩じゃなくてお風呂にしようよ」
「……なにがどうしてそうなったのかな」
「この前、ダヴィンチちゃんが温泉作ったーって自慢してたよ。キャットちゃんも入りたいよね?」
「ご主人が手ずからアタシの毛繕いをしてくれるのか! そうと決まったら早速行こう! 今すぐ行こう! なんなら此処で脱いでも構わない」

 ふりふりのメイド服をふにふに肉球で器用に脱ごうとするキャットを見て、マスターは脱がなくていい! と叫ぶ。半脱ぎ状態のキャットは不思議そうに首を傾げていたが、そもそも裸エプロンで歩き回っていたりしたのだから、それよりかは健全なのでは? と思うわたしであった。

「とにかく! ほら、キャットの手作りキャロットパイ食べに行こう?」
「うむ。肝心の目的を忘れていたのだな。味は保証するぞ! なにせ美味しすぎて味見で一つ消費してしまったのだからな!」
「何個作ったのさ、それ」

 わたしのツッコミを無視してキャットは楽しそうに歩き出す。サーヴァントって太らないから羨ましいと隣で聞こえた小さな言葉に、わたしはそれを発したマスターさんの耳元に唇を寄せた。キャットは意気揚々と先導しているので、邪魔は入らない。

「太ったらわたしが一緒にダイエット手伝ってあげるよ」
「……、健全なやつで」
「なぁに想像してるの? マスターさんのえっち」

 ふっと耳元に息を吹き込むと、彼女は面白いくらいに頬を赤く染めて手をぶんぶんと振り回した。可愛いなあ全く。

「ご主人? どうした、運動か?」
「キャットちゃんのキャロットパイが楽しみなんだってさ」
「! ご主人にそんなに楽しみにされるとアタシも作った甲斐があるというものだ!」
「……くそう。なまえちゃん覚えてろよ……」
「楽しみにしてるね、マスターさん」

 わたしは足早にキャットの隣に行き、キャロットパイが早く食べたいなあと思うのだった。ちなみに、お風呂に入ろうとしたらマスターガチ勢代表の清姫に会ったので入れませんでした。残念。

キャットちゃんと、

20170406