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月宮さんへ捧げます。
時系列的に同棲(結婚)という形にさせて頂きました。
雄英で働くようになったのは原作スタートの半年ほど前から。
USJ編が始まる前くらい。
生徒の口調、呼び方等あやふやでまた修正するかも知れません。


 雄英高校の食堂で働くことになってから早数ヶ月。突然校長先生にうちにおいでよ! と柔かな笑顔で言われた時は大分焦りもしたが、やはり母校で働けることは何よりも誇らしく思える。幸い今まで働いてきた料亭は女将さんも大将もいつでも戻ってきていいからねと優しい言葉を掛けて貰えた。繁盛期には必ずお手伝いに行こうと私は固く誓ったものである。結婚をして、恋人から伴侶に変わった相澤消太さんとは変わらず仲良く過ごせているし、とても毎日が充実している。職場では働く環境が違うから滅多に顔を合わせないけれど、それでも同じ所で、しかも出会った場所で働けるというのは中々にドラマティックというか少女漫画みたいだと思っている。お互い忙しい身の上だが校長先生が「新婚さんなんだから少しはゆっくりしなよ」となるべく休みを合わせて貰えたりと嬉しいような恥ずかしいような、むず痒い感覚になった。消太さんは例年通りヒーロー科の一年生を受け持っていて、またそれが曲者揃いらしい。私が学生時代の頃と変わらずヒーロー科はやはり色んな意味で強者揃いだ。彼が何度も難しい顔をしながら家でも仕事をしていたのをよく覚えている。私は彼の仕事について手伝えることなんてないので、毎日綺麗なお家でお迎えをして美味しいご飯を作るばかりである。そしてそんな新学期からほどなくした土曜日。私は久しぶりの休みを満喫するのであった。雄英高校は基本的に休みは日曜のみで、土曜日も授業がある。ヒーロー科以外は四限で終わる土曜日は食堂の生徒利用数がいつもより多くない為、前日に仕込みをすれば大体土曜日に休みが貰えた。勿論、他の食堂勤務の人と兼ね合いもあるので例外もあるのだが私の最近の休みは隔週土曜と日曜だ。それでも一緒に住んでいる彼は土曜日もお仕事なので、昼まで惰眠を貪るということはなく朝ご飯の支度をして彼を見送ってから私は少しだけダラダラとする。前職の影響かそれとも自分の性格なのか、一度眼が覚めると中々寝付けないので、二度寝をするというのは余程のことがない限りしない。彼を見送ってからコーヒーを淹れ、テレビのニュースを眺めながらぼーっとしているとソファーに封筒が置いてあることに気付いた。

「……消太さんの忘れ物?」

 珍しいこともあるものだ。彼が忘れ物をするところなんて初めて見たかも知れない。封筒の中を確認すれば、やはり彼の忘れ物のようで生徒の資料とカリキュラムの予定が書かれた資料が入っていた。そういえば昨日の夜も熱心にパソコンに向かって何かを打ち込んでいた気がする。これは今日使う、大切なものではないのだろうか。私はテレビに映った時間を見ながらキーケースを掴んだ。土曜日の今の時間なら道は空いているだろう。私は鏡で一度身嗜みを確認して靴を履いて外に出る。間に合うといいのだけれど。



 案の定道は空いていて私はほっと安堵の息を漏らしながら、学校の中に入っていく。道行く先生にあれ? 今日はお休みでは? と聞かれたが、私は曖昧に忘れ物をしたと誤魔化しながら職員室に向かう。学生時代の頃はやたらと緊張したなあと昔のことを思い出しながら、彼が座っている席を見たがお目当ての人物は見当たらなかった。

「あれ? みょうじさんどうしたんですか?」
「13号先生……、相澤先生は?」
「もう教室に向かったと思いますよ。お届け物ですか?」

 私の腕に抱えた封筒を一瞥して可愛らしい宇宙服のヒーロースーツを着た13号先生が尋ねてくる。一応、職場でいる時はお互い苗字で呼び合っている。同じ職場に二人も相澤がいたらわかりにくいだろうと、私もここでは旧姓で通している。(勿論、結婚していることは先生方全員ご存知だ。)
 私は彼に封筒を渡す旨を13号先生に告げてから職員室を出る。SHRまでに間に合わせなければ。学生時代に戻ったような気持ちになりながらなんとか1A教室まで辿り着く。ノックしてから入ろうと扉に手を近付けた瞬間にガラリと扉が開いて少しびっくりしたが、中から出てきた生徒は私以上に驚いただろう。食堂でしか働いていない私を知っている生徒は本当にごく僅かだ。見慣れない人物に、扉を開けた金髪に黒メッシュが入った男の子は僅かに目を見開いていた。

「ごめんね、相澤先生ってもう来てる?」
「相澤先生……スか?」

 まだ来てないっスけど……と口籠る彼に私はどうしたものかと頭を回転させる。気の良さそうな男の子は私の腕に抱えた封筒を見て届け物なら預かりますよと少しは砕けた今風の口調で話し掛けてくれる。優しい子だなあと思いながらも、これを一時的とはいえ生徒に預けていいものなのだろうか。私は少し悩みながら笑みを浮かべてどう返そうかと思っていると後ろからあーと大きな声が聞こえた。

「なまえさんだ! こんなとこで何してるんですか?」

 茶髪の元気が良い女の子は最近仲良くなった麗日お茶子ちゃんだった。ニコニコとした人懐こい笑顔とは対照的に、隣にいるふわふわとした癖毛の男の子が私を見て不思議そうな顔をしていた。

「お茶子ちゃん、おはよう」
「おはようございますっ。で、こんなとこでどうしたんですか?」
「相澤先生に忘れ物のお届け物をしに来たんだけど、まだ来てないみたいで」
「職員室にはいなかったんですかー?」
「いなかったんだよね。だからどうしようかなって」

 一応機密事項があるかも知れないから生徒に預かって貰うわけにもいかなくて、と伝えながら私は最初に話しかけた金髪の男の子に謝罪をした。

「親切にしてくれたのにごめんね、えっと……上鳴くんで、合ってるかな?」
「俺の名前知ってるんですか!?」
「一応、生徒の名前は全員ね」

 食堂でしか働いていないとはいえ、学校に勤めているのだからと全生徒の名前と個性くらいは把握している。私がそう言うと上鳴くんは頬を僅かに赤く染めながら瞳をキラキラさせてスゲェーと笑っていた。

「あの、麗日さん……あの人って」
「食堂でランチラッシュと一緒にご飯を作ってくれているなまえさんだよ! デクくん!」

 後ろでお茶子ちゃんは私のことを知らない男の子、デクと呼ばれた緑がかったふわふわした癖毛の男の子。緑谷出久くんにそう話していた。

「君が緑谷くんだね。オールマイト先生がいつと楽しそうにお話してくれてるよ」
「オールマイトがですか!?」

 オールマイトの名前が出ると途端にキラキラと瞳を輝かせて笑顔になる緑谷くんに、私も知らず知らずのうちに笑みが浮かんでしまう。

「ここの生徒はみんな優秀で頼もしいって」

 事故の後遺症でたくさんの食事が摂れなくなってしまったオールマイトによく私は差し入れをしていた。その時に他愛無い話をするのだが、決まってよく1Aの話と緑谷くんの話を聞かされていたのだ。その言葉に緑谷くんだけでなく上鳴くんやお茶子ちゃんも嬉しそうに笑みを浮かべていて、私も胸の内が温かくなるのがわかった。

「でも、相澤先生が忘れ物なんて珍しいですね」
「私もびっくり。今まで家に忘れ物なんてしたことなかったのに」
「家に……?」

 緑谷くんの言葉に私がそう返すとお茶子ちゃんが不思議そうな顔で私の言葉を反芻していた。あ、もしかして今、とても失言をしたのかも知れない。合理的な彼のことだから生徒に既婚者だとか、しかも相手が同じ職場で働いているとか、そういうことを吹聴するとはとても思えない。聞かれたら答えるけれど、自ら言う必要性は? という感じだろう。恋に多感な思春期の女の子に、そういった話題は大好物だ。どうしようと辺りを見渡せば、興味津々に教室の中にいる1Aの生徒も私達の会話に耳を傾けているようだった。

「なまえさん先生と一緒に住んでるの!?」
「ってことは恋人っすか……?」
「……相澤先生に彼女とか想像が出来ないなぁ」

 緑谷くんの言葉に思わず笑い出してしまいそうになったが、そんな場合ではない。一体どう言い繕えばいいのか。既婚者だと私から話していいものなのだろうか。悩んでいると後ろから聞き慣れた靴音が聞こえて、私が振り向く前に肩にポンと手が置かれるのであった。

「彼女じゃなくて、俺の奥さん。ほら、HR始めるからさっさと席に着け」

 いつもの低い声音でぼさぼさの髪型の無精髭を生やした彼は紛うことなく私の大切な相澤消太その人であった。奥さん、俺の奥さん。一気に頬に熱が集まるのがわかったが、生徒はみんな彼の言葉に驚いた様子でじっと彼を見ていたようで私は胸を撫で下ろした。熱くなった頬を誤魔化すように、渋々と席に戻る生徒の様子を眺めながら彼に向き合った。

「教室に来るなんて珍しいな、どうした?」
「あ、えっと……お届け物です」

 封筒を渡すと彼は少し目を開いて、納得したように言葉を紡いだ。

「昨日の遅くまで作ってたから大切な物なんだろうなと思って、届けに来ました」
「わざわざ悪いな。助かった」

 彼は私の頭を撫でて耳元で私の名前を呼び、また夜にと声を掛けるとすぐさま教室に消えて行く。チャイムの音と共に閉まった扉を見ながら、私はこの赤くなった頬をどうしようと暫く廊下に立ち尽くすのだった。

舞台はリノリウムの廊下、
秘て密やかに貴方を愛す。

おまけ

SHRが終わってからの会話。

「噂のなまえさんが、相澤先生の奥さんなんてね……」
「噂ってなに? 芦戸ちゃん」
「あれ? 麗日知らないの? 食堂で働いてる可愛いお姉さんって男子の間じゃ結構有名らしいよ」
「へぇ〜だから上鳴あんなに落ち込んでるんだ」
「なまえさんが相澤先生の奥さん……、俺の儚い恋……」
「帰ってきなよ、上鳴」

「人妻ってのもエロいよな……しかも若い……ッ」
「峰田くんそれ絶対に相澤先生の前で言っちゃダメなやつだ」

※一応上から芦戸、麗日、耳郎、上鳴、峰田、緑谷のつもりです。

20160901 title 吐く星(改変)

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