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モブ男視点から見た夢主。
夢主は相澤先生と料理のこと以外鈍感。
夢主の名字が旧姓なのは相澤が二人いると紛らわしいからという理由。
相澤先生の気苦労は絶えない。
(夢主は相澤先生と付き合いだしてから女の魅力というか色気が出てきたらいいなという妄想。)


 ここ最近、食堂で昼食を取る人数が増えた気がするのは俺の気のせいではないだろう。頼んだカレーライスを食べながら周りをぐるっと見渡せばいつもより三割り増しほど人が多い、しかも野郎が。ちらりちらりと辺りを窺う男共が見て取れる。自分もその一人なのがまた笑えてしまう状況だ。受け渡し口にたまに訪れる可愛らしいあの人を見るために皆こぞって食堂に足を運んでいるのだった。

「お待たせしました! 日替わり定食です」

 優しい笑みを浮かべて配膳をしている彼女は、最近雄英高校に勤め始めたみょうじなまえさんだ。なんでも雄英高校卒業で、今まであの有名な星がたくさん付いている料亭で料理を作っていたとか。女子によるとあの可愛らしい見た目なのにも関わらず寸胴鍋を軽々と持ち上げるらしい。そんな可愛らしい外見とのギャップに心がグッと鷲掴みにされてしまっている。普段髪の毛を纏めて配膳をしたり遠目から料理をしている姿を見ることしか出来なかったが、この前一度だけ髪の毛を下ろしている姿を見た。いつもの凜とした雰囲気とは変わって柔らかな優しい表情をした彼女に一目で胸を射止められてしまった。聞けば年齢はまだ二十前半らしい。全然いける。寧ろ十代くらいに見えてしまう。そう思ってしまうのは惚れた欲目なのか彼女の雰囲気がそう思わせているのか、どちらにせよ話したこともない彼女に自分は心動かされて仕方がなかった。俺が言った言葉を鼻で笑っていた同じクラスのあいつも、彼女に優しく微笑み掛けられたらすぐにコロリといってしまった。男ってのは単純な生き物だよなとブーメランな発言をしつつカレーを一口。食堂に来ている何割の男が彼女目当てなのだろうか。可愛いから一目見たいという層もいると思うが、その中に俺みたいな邪な考えをもった男もいるはずだ。学校で働いているとはいえ教師ではないのだから、大丈夫なはすだきっと、多分、そうだ、うん。そうやって自分を鼓舞しながら彼女に話し掛けよう、渡そう、と掌に持った自分の連絡先が書かれた紙を今日も俺は渡せないでいるのであった。




 隣のクラスに在籍する学年の中でそこそこモテていた男子が、例の彼女に告白して玉砕したという話題は瞬く間に同学年の中で広がっていった。その男子は格好良い顔と成績優秀、運動神経抜群といった三拍子が揃った(しかし性格に若干難がある)有名な奴で、ついに負けてしまったかとクラスメートと涙を呑んだのだが、振られたという結果を聞いて喜び舞い上がってしまった。断られたあいつは彼氏が居るんですかと食い下がったみたいだが、彼女は「彼氏は……いないんだけどね」と困ったように笑いながら首を縦には降らなかったらしい。彼氏はいないのか、マジか。あんなに可愛いのに! とテンションが上がった俺達は普段授業では出せないような好成績を出して担任に褒められたのだった。鼻歌でも歌いたくなるような気分で一日を過ごし、いつもなら溜息が吐きたくなるような課題の量も今は気にならないほど俺は上機嫌でいた。しかしそんな俺が天国から地獄に落とされるのはこの後のことだった。担任から一年生を受け持つ相澤先生に資料を渡して欲しいと頼まれてしまった。なんで俺がと思ったものだが、口には出せずに渋々職員室に向かう。しかし件の相澤先生は居らず、そのまま机の上に置いても良かったのだが、教室にいると言われてしまい何故かそのまま一年の教室に足を進めてしまっていた。怠いなぁ、早く帰りたいなぁと思いながら足を進めていると、丁度曲がり角を通った先に相澤先生と例の彼女のなまえさんがいた。仲良く談笑している姿に俺は思わず戻って隠れてしまっていた。ああ、なんで隠れたんだ俺は! 自分の行動の意味不明さを嘆いていると、二人の会話の内容が耳に入ってきた。

「最近、生徒に告白されちゃって。私みたいなのじゃなくて、同年代に可愛い子がたくさんいるのに。最近の子は不思議ですね」
「……君はもう少し危機感を持った方が良いんじゃないのか? 隙があり過ぎるぞ」

 そうですよ相澤先生もっと言ってやってください。なまえさんの隙というか、こう男心をくすぐる笑顔は本当に心臓に悪い。けれど、そんな彼女が好きな自分は本当に馬鹿な男である。

「彼氏居るんですか? って聞かれて困っちゃいましたよ。彼氏はいないけど、って濁したんですけど」
「誤魔化さないで正直に言えば良かっただろ」
「うーん。ほら私ってまだ一応、若いじゃないですか。だから正直に言っても嘘言わないでください! とか言われちゃうんですよ。もう、どうしようかな。指輪してればそういうの減ると思います? 消太さん」

 消太さん? んん? 正直に言うって何が。調理場で仕事をしているから指輪ってあんまりしたくないんですよね。汚れちゃう。と彼女が言うよくわからない言葉達が頭の中をぐるぐると回って、パレードみたいに楽しそうに踊っている。冷や汗が流れ出るのを感じながら、俺はもしかして、いや、まさかと、考えたくない答えを導き出し始めていた。

「もう、結婚してるってみんなに言えばいいかな。でもそうすると相手は? って詰め寄られて、消太さんに迷惑掛かっちゃうかなって思うと……」

 学校でそういうの言うとすぐに噂になって揶揄われたりするでしょう。私はいいけど消太さん大変ですよね? そう彼女が言った言葉が胸に突き刺さった。結婚。結婚をしている。そしてお相手が、同じ職場の先生。しかもあの相澤先生。足の力が抜けて座り込みたくなるのをなんとか気合いで踏ん張った。

「俺のことは気にしなくていいから、なまえはもう少し自覚を持て」
「……なんの自覚ですか?」
「あー、……やっぱり名字相澤にしとけばよかったな」

 ぼそりと呟かれる言葉を最後に二人の声はどんどん遠くなっていく。俺は自分の恋が散っていくのを感じた。既婚者に挑むほど、そんな命知らずな人間じゃない。しかも相手はあの相澤先生だ。命がいくつあっても足りない、というか挑める勇気なんて持ち合わせていない。そしてそんなに熱くなれるほど彼女を恋い焦がれる恋でもない。それから俺はどうにかして職員室に戻り、相澤先生の机の上に資料を置いて帰ったらしいが記憶が全くなかった。翌日から彼女が左手の薬指にした指輪と、女子から流れる「なまえさんて相澤先生と結婚してるらしいよ」の噂に馬鹿な男の俺達は失恋パーティーを開催するのであった。

「これだから恋という奴は、とぼくは知ったかぶる」

20160821 title 吐く星
20161116修正

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