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君を手に入れる魔法はひとつだけ


「うん。状態も安定しているし、退院しても良いでしょう」
「本当ですか?」
「暫くは通院してもらうけどね。薬も出しておくけど、おまじないみたいなものだから」

 カウンセラーの先生は彼女を見てとても嬉しそうに笑った。環境を変える為に退院したいと先生に伝えると、少し驚いた表情をした。個性がまた使えるようになったきっと相澤くんのお陰だ。相澤くんの前で目一杯泣いた後に何故か頭の中に一節の言葉が浮かんで、それを口にすると眩い光が私を包んだ。目を開ければ焦がれて仕方がなかった、魔法少女の姿をした私がいた。ふりふりの可愛らしいコスチュームとマジカルステッキ。羽が生えたように体は軽く、今なら空の上でも海の底でもどこでも飛んでいけそうだった。喜びのあまりに相澤くんに抱き付けば、彼は低い声で呻いた。久しぶりの個性の発動で力の制御が上手く出来てないようで私が慌てて彼の体を離すと、彼は酷い目に遭ったと顰め面をした。

「改めて見ると凄い衣装だなこれ」
「魔法少女がイメージだから……、あんまり見られると流石に恥ずかしい」
「あれだな、みょうじの好きなアレに似てる」

 相澤くんの口から出るとは思わない女児向けアニメのタイトルが出てきて、私は吹き出してしまった。なんで知ってるの? と聞けば、毎月買ってれば嫌でも覚えると私へのお土産のアニメ雑誌を顎で指した。

「それにお前が俺に力説したの忘れたのか?」
「私、そんなことしたの……?」
「マイクが絶句するレベルで語ってたぞ」

 あの山田くんが絶句するってどんな風にしたんだ私。

「……心配かけてごめんね」

 乱暴に私の頭を掻き乱して相澤くんは口角を上げた。

「行動で示すことだな」



 全盛期に比べると個性の能力は劣ったが、それでもチートクラスだと相澤が笑うとみょうじはそうかなとビールを一口飲んだ。苦いと舌を出せば、無言で頼んであったオレンジジュースを前に置き、ビールを自分の方へ寄せた。スノーホワイト快気祝いのそれは色々な関係者が詰め寄った。同業者の同期だけに留まらず先輩後輩、そして雄英高校の同級生をも巻き込んで、もはや何の祝いで集まったかわからないレベルの飲み会が始まった。最初は彼方此方と揉みくちゃにされ、疲れ果てた様子のみょうじだったが、相澤が助け舟を出してなんとかその場を離れることが出来た。お酒を飲んでみたいという彼女にビールを頼んだが、やはり口に合わなかったようだ。オレンジジュースを飲んでいる方がずっと彼女らしいと相澤は思った。退院してから一年程で彼女は復帰できるほどに回復した。彼女が己に課していた魔法少女のルールも緩和することが出来た。大人になってはいけないという暗示を解くことが出来たので、こうやって彼女は酒を飲めるようにもなった。まあ、どちらにしろ口に合わないので飲まないのだが。それでもその何気ないことが彼女の心を安らかにしたのだろう。身長はあれから少し伸びたがそれでも女性の平均と比べると小さい方だ。本人はビールを履いて誤魔化しているが、室内だと彼女の小ささがわかる。顔付きもそれなりに大人っぽくなったが、それでも一人だと酒を買うのに免許証の提示を求められるし、夜に出歩くと警察に補導されかける。じーっと彼女の横顔を見ていた相澤に気が付いたのかどうしたの、と尋ねた。

「別に。なんでもない」
「そっか。ねぇ、相澤くん」
「なんだ?」
「今までありがとう。これからも迷惑も心配もいっぱい掛けると思うけど、よろしくね」

 屈託のない、素の笑みで彼女は笑った。なんだかその言葉が告白のようだと思ったが口にしないことにした。

「これからも、みょうじの隣に俺がいればいいと思ってるよ」
「……? いつも相澤くんの隣にいるよ?」

 だって部屋隣だし。どこからかやってきたマイクが大きな笑い声を上げて、相澤の背中を叩き出した。

「ったく、消太も消太だけど、みょうじもみょうじだよなぁ〜! 学生時代からちっとも変わってねぇの〜」
「うるせぇ。背中やめろ」
「? 私はともかく、相澤くんは変わったよね? 髪伸びたし、髭もあるし」
「……え、まじ? みょうじほんとにわかってねぇの?」
「だから人の背中を叩くんじゃねえ」

忌々しくマイクを睨み付けた相澤を怖い怖いと両手を上げて降参のポーズをした。みょうじが不思議そうにこちらを見ていた。あどけない子供のような表情にマイクは友人が少し哀れに見えたようで肩に手を置いた。

「今度酒でも奢るぜ」
「#name2#。マイクが奢ってくれるってよ。予定空けとけよ」
「ほんとに? 学生時代みたいで懐かしいね」

 三人で図書館で勉強したのを思い出すなぁと昔を懐かしむみょうじを相澤は優しい眼差しで見つめていた。今は隣で彼女を支えることが出来たらそれでいい。

「生憎と、待つのは慣れているんでね」
「……相澤くん、何か言った?」
「何も。ほら、ちゃんと食えよ」
「食べてるよ、もう子供じゃないんだから」

 彼女はにこりと笑う。その笑みが見られただけで待った甲斐があったというものだった。

君を手に入れる魔法はひとつだけ すいせい