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お望みのままに与えよう

初夜から何年後かの話。


 白い肌が赤く上気して艶かしい吐息を漏らす妻を見ながらクラッカーは結婚初夜の日を思い出した。自分に面倒がなければいいと思っていた女にこれほどまでに入れ込むことになろうとは誰が想像しただろうか。あの日も狂気じみた執着心を持っていたが、それは勢いを増すばかりだった。燃え上がった熱は冷めることを知らないままにクラッカーを蝕み続けている。眼下にぐったりと汗ばんだ体を横たえる姿はあの頃よりも淫靡で美しい。垂れた汗が彼女の肌に落ちるだけでびくりと体を震わせて甘い声を漏らす。愛らしくていやらしい。どこまでも飽きさせない女だとクラッカーは赤く染まった頬に唇を寄せた。

「唇には、してくれないの……?」

 普段は嫋やかで言葉を乱さない女が情事の時にだけ崩す言葉遣いがクラッカーは一等好きだった。甘やかしたくて仕方なくなってしまう。

「お前を無理させたくないおれの気持ちをわかって欲しいものだな」
「無理だなんて。いつも優しくて、私のこと労わってくれるのに……」
「優しいおれでいてほしいなら我慢だな」
「……クラッカー様になら酷くされたって大丈夫なのに。痛いのは、ちょっと怖いけど……」
「痛くしたことがあったか?」
「ない、です。いつも、あなたからは気持ちいいことしか、教えてもらってな……っ」

 吐精をしてもなお硬度を保ったままのそれをゆるく律動させれば甘やかな声が響いた。好いた女に強請られてしまっては期待に応えなければ男ではないだろう。

「なら、今夜は寝かせてやれそうにないが。いいか」
「いっぱい、愛してください……んッ、終わったら、とびきり美味しいビスケット、食べさせてくださいね」

 蠱惑的に微笑んだナマエはクラッカーの唇には自分の唇を重ねた。せがむように足を絡ませて舌で唇を舐めとる仕草を無意識にやっているのだから本当に恐ろしい女だとクラッカーは笑う。貞淑に勤める妻が自身の前でだけこうも淫らになる姿は優越感すら湧いてくる。小さな舌を絡め取ってやれば嬉しそうに肩にしがみつく手の力が強くなった。全くそういうところが可愛くて仕方がない。
 ポンと手を叩いて生み出したビスケットを彼女の小さな口へと運んでやれば、雛が餌を貰うように口を開いた。さくさくと音を立てるビスケットの味はもちろん一級品で、彼女は嬉しそうに頬を緩ませながらその味を堪能していた。

「満足か?」
「はい。とっても美味しいです」

 クラッカー様のビスケットが一番美味しくて大好きです。と続けられた言葉にクラッカーの自尊心はどんどん満たされていく。情事のあとに怠そうにしている彼女にビスケットを作り差し出した初夜の日を思い出す。手ずから食べさせることになってしまったあの日から、クラッカー自身がこうして給餌をしている。先程まで甘ったるく鳴いていた小さな口がビスケットを頬張る姿は色香と可愛らしさが同居している。クラッカーにとって可愛らしい妻がこうして手ずからビスケットを強請るこの瞬間が好きだった。無防備に微笑みながらナマエが密着している時間は荒んだ海賊業を忘れさせるほどに穏やかなものだった。

「私、とっても幸せです。クラッカー様と結婚してよかった」
「そうか。おれもお前でよかったよ」
「ふふ、実はこうやってクラッカー様のビスケット食べるの大好きなんですよ」
「あァ知ってる」

 ナマエは穏やかな表情を浮かべるクラッカーの髪を梳くように撫でながら頬に口付けを落とした。戯れの口付けに不満なのかクラッカーはナマエの顔を覗き込む。

「唇にはしてくれないのか?」
「まあ。お上手なんですから」

title mjolnir
20231018

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