「お前、私のことが好きなんだろう?」
「…はあ?」

退屈な授業が終わってやっと迎えた昼休み。尚香、鮑三嬢と昼ご飯を食べつつ、ガールズトークに花を咲かせていた。
そこに突然、鍾会がやってきて放った一言によって、楽しい昼休みが終わりを告げる。

「…ちょっと何を言ってるのか理解できないんだけど」
「隠さなくてもいい。 私にはわかりきったこ「もう病院行ってきなよ。 重傷だよあんたの頭」
「フッ、恋心を見抜かれて恥ずかしいか」

くるくると髪を指に巻きつけながら、自信に満ち溢れた表情で話を続ける鍾会。こいつの頭の中には会話のキャッチボールという言葉は存在しないようだ。
前から変な奴だとは思っていたけれど、本気でお医者さんに診てもらった方がいいんじゃないのだろうか。

「照れてないし、あんたのことも別に好きじゃないから」
「往生際の悪い…いい加減に認めたらどうだ?」
「…大体どこからそんな考えになったわけ?」
「最近、お前から熱い視線を感じるからだ」

まさかこんな答えがくるとは。同じクラスになって約半年。私が鍾会に熱い視線を送ったことなんて、はっきり言って一度もない。こいつ変な奴だなと思いながら、冷たい視線を送るのは日常茶飯事だけれど。

「それって冷たい視線の間違いだと思うよ鍾会くん」
「頑固だなみょうじは。なるほど、これが噂のツンデレか…!」

もう駄目だこいつ。早くどうにかしないと。

「誰か!通訳か救急車を!」
「折角だから付き合っちゃえば?」
「えっ、そんな簡単に…友達でしょ私たち」
「これでなまえにもやっと彼氏が…」

なんて薄情な友人達なのだろうか。か弱い私が助けを求めているのに寧ろ応援するなんて…こんな自分大好き英才教育野郎と付き合うなんて私は御免だ。

「全く、いつまでも意地を張るな。 さっさと素直になれ」
「だから!好きじゃないってば!」
「じゃあ、あの熱い視線は誰に向けているんだ? 私以外にいないだろう?」

鍾会は納得いかないようで問い詰めてくる。急すぎるでしょこんな話。熱い視線を送る相手に心当たりなんて…あ、もしかして。

「あのさ、それあんたに向けてじゃないわ」
「なんだと!」
「それは…夏侯惇先生に向けての愛の篭った視線です!」
「!?」
「夏侯惇先生って渋くてかっこいいじゃない。最初は怖いイメージ持ってたけど、めちゃくちゃ頼れるし、意外に優しいし。ごくたまに見せてくれる笑顔とか素敵すぎて…ああもう早く明日にならないかなあ!授業が待ち遠しい!」

大好きな夏侯惇先生を思い浮かべながら存分に魅力を語った直後、教室がしん、とあり得ない程の静けさに包まれた。さっきまでのあの喧騒はどこにいったんだ。
みんな、お願いだからそんな痛い子を見るような視線を向けるのやめて。こう見えても傷つきやすいから、私。

「この私が…勘違いをするなど…」

わなわなと震えながら鍾会は俯いてしまった。まさか逆ギレとかしてこないよね。よくも私をこんな辱めにあわせたな!とかさ。これは面倒なことになりそうな予感。

「じゃあそういうことだから。この話は終わ…」

早くこの空気から抜け出したいと話を切り出した瞬間、ばっと勢いよく両手を握られた。視線を辿った先にはさっきまで俯いていた鍾会が。

「結果的には勘違いだったが…どうやら私はお前に惚れてしまったらしい」
「え、あ、鍾会くーん…?」
「いつか必ず、私に夢中にさせてやる」

あっけなく鍾会の瞳に捕らわれてしまった私は、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。まるで心臓を鷲掴みにされているような感覚。心臓がうるさくて、みるみると顔が赤くなっていくのもはっきりとわかる。

「私は諦めないからな、なまえ。覚悟しておけ」

そう言い残して鍾会は嵐の如くどこかへ去っていった。突然の出来事に頭がついていけない。

「おーい、なまえー。大丈夫ー?」

鮑三嬢が目の前で手を振る。そこで、はっと正気を取り戻した。

「ねえ、一体何が起こったの…」
「もう!鍾会があなたに告白したのよ?」
「これドッキリでしょ。 そんなのに騙されないよ私は」
「何言ってるのよ、本気の告白に決まってるじゃない!」

鍾会がドッキリ大成功!って書いてあるプラカード持って出てくるのを期待してたのに。絶対そんなことしないだろうけどね。悔しいけれど、ときめいてしまった自分がいて。やってくれるな英才教育くん。未だに心臓がどきどきしてる。顔が熱い。
嗚呼、神様。私はなんて単純な人間なんでしょうか。どうやら恋に落ちてしまったみたいです。



BGM:マイハートハードピンチ(相対性理論)