ざあざあと雨音が部屋に響く。雨の日は本当に退屈だ。元就様は雨音を聞いていて心地いいから好きだと言う。けれど私は好きになれない。だって城下で甘味食べたり縁側で日向ぼっこもできないし、なんとなく気分が沈むから。単純な理由だけれど私にとっては大切なことなのだ。

「元就様ー」
「なんだい?」
「雨のせいで暇です」
「そこにある本は好きに読んでいいんだよ?」

元就様は読んでいる本から視線を外さず、部屋の片隅に積まれた本の山を指差した。本に関すること以外に何かしようと思わないのかこの人は。呆れつつも元就様に後ろから抱きつく。

「読みましたよ…おかげでぐっすり眠れました」
「はは、それは読んだ内に入るのかな」

そっと元就様の手元を覗いてみると、日光に当たって黄ばんだ紙には文字がびっしり書いてあった。あーあ、いつも雑に扱うからこんなに痛んじゃって。本が大切だと言っているのにも関わらず無差別に積んだり、虫干しをしないのはなんとも元就様らしい。

「構ってくださいよー」
「待って、あともう少しだから」
「元就様の言うもう少しは信用できません…」

ため息混じりにそう呟くと同時に、少し言いすぎたかなと後悔の気持ちが芽生える。さっきから我儘言ってばかりだな私。そんな自分に嫌気がさして更に気分が沈んだ。
パタンと本を閉じる音が聞こえて、元就様の体が私の方に向けられた。もう読み終わったのかと思い、声をかけようとしたら顔がゆっくり近づいてきて、私の言葉は優しい口付けによって飲み込まれてしまった。

「後で嫌ってほど構ってあげるからいい子にしてて、ね?」
「…元就様っていっつもずるいですよね」
「ん?」
「いや、なんでもないです」

いつものようにふにゃりと笑った元就様は、ぽんぽんと私の頭を撫でてから読書を再開した。
これが大人の余裕ってやつなのか。ふつふつと愛しいという感情が湧きあがってきたので、ありったけの力を込めて元就様の背中に抱きつく。「苦しいよ、なまえ」と弱々しい声が聞こえてきたけどそんなの気にしない。
そっと耳を元就様の背中にくっつけてみる。とくんとくんと聞こえてくる元就様の心音は、未だに降り続ける雨音と混ざって、ひどく私を安心させた。
駄目だ、眠い。あともう少しで元就様が構ってくれるというのに。みるみると私の意識は夢の中へ引きずりこまれる。ごめんなさい、私は睡魔に勝てる気がしないです。
たまには雨もいいかな、なんて思いながら私は静かに目を閉じた。