授業が終わって兼続からメールが届いた。内容は屋上で昼ご飯のお誘い。「すぐ行く」と短く返事を送って屋上に向かう。
ちなみにお昼は兼続と二人っきりで食べるわけではない。多分。そういえば前に二人で食べた時、ひたすら愛と義について語られ食欲がなくなってしまったという記憶がある。あの時は本当にお腹が空きすぎて気持ち悪いくらいだったのに。愛と義でお腹いっぱいになったのだろうか。とりあえずダイエットになるからいいや、と軽く流した。

「お待たせー」
「おお、来たか!」

よかった、三成と幸村もいる。今日はお弁当を残さずに済みそうだ。屋上はたっぷりと日が射し込んでいて、思っていた以上に暖かい。ぐぐっと伸びをして兼続と幸村の間に座った。

三人と仲良くなったのは昨年のクラスでのこと。偶然、兼続と席が隣になり、自然と三成と幸村とも話したりするようになったのがきっかけである。

「先に食べているぞ」
「んー。 …あれ?」

じいっと幸村の手元を見る。ねねさん特製の愛情弁当を食べている三成とご飯の上にさくらでんぷんで愛と書かれたおかしなお弁当を食べている兼続をよそに幸村の手元には焼きそばパン。

「幸村、今日はお弁当じゃないの?」
「お恥ずかしいのですが…寝坊をしてしまって」

眉毛を八の字にして申し訳なさそうに幸村は言った。なんだろうこの罪悪感。ごめんね、幸村。責めてるわけじゃないんだよ。それにしても、規則正しい生活を心がけているあの幸村が寝坊しただなんてとても信じられない。しかし育ち盛りの男の子が焼きそばパン一個だけって普通に足りないだろう。

「幸村」
「なんでしょうか?」
「はい、あーん」

目の前に出された卵焼きを見て目をぱちくりさせる幸村。こちらをガン見しながら黙々とご飯を食べている兼続と怪訝な顔をした三成。四人の間に何ともいえない空気が流れる。

「えっと…ごめん」

この空気に耐えきれず幸村の口元に伸ばした腕を引っ込めた。普通にあげるだけじゃ面白くないし、こんなのもたまにはいいかなって思ってやっただけであって、特に深い意味はない。だからそんなにこっち見ないでよ兼続。まあ、普通に考えて真面目な幸村がのってくれるわけがない。

「いえ、頂きます」
「えっ」

まさかの返事に呆気にとられていると、ゆっくりと幸村の手が伸びてきて私の腕を掴んだ。そして彼は力を抜けかけている私の腕を引き寄せ、ぱくりと卵焼きを食べた。

「美味しいです。 なまえ殿がお作りになったのですか?」
「う、うん」

料理上手なのですね。
こんなこと言われたらもう。これでわかった、あーんは軽い気持ちでやるもんじゃないと。恥ずかしすぎて死にそうだ。

「次に昼食を食べる時は私があーんしますね」
「!」
「嫌ですか…?」
「いっ、嫌じゃないよ!その、なんていうか…参りました」
「?」

駄目だ、幸村には勝てる気がしない。今更だけど天然ってこんなにも恐ろしいものなんだ。幸村は意識していないだろうけど私は意識しまくっている。心臓ばくばくとうるさくて落ち着かない。

「これも愛だな!」
「くだらん…」

今日一番の笑顔を見せながら、私の肩をポンと叩いた兼続を見て食欲がなくなった。理由は他のことも含まれているのは確実だけど。幸村は一度やると決めたら何があってもやり遂げるタイプだから確実に逃げられない。次に一緒にお昼ご飯を食べる日はそう遠くはないだろう。考えただけでくらりと眩暈がした。