まず始めに言っておこう。わたしは決して徳川くんのことが嫌いなわけではない。
ただ、彼が眩しくて直視できない。太陽のように燦々と輝く彼の笑顔は、わたしから見れば殺傷能力抜群な凶器にしかすぎないのだ。ああ、思い出しただけで溶けてしまいそう。

「どうすればいいのかな、これは」
「お前…家康を神とでも思ってんのか?」

コーヒー牛乳を片手に元親くんは答えた。あまり社交的ではないわたしにとって元親くんは幼馴染であり、頼れるお兄ちゃんのような存在だ。

「いや、ちゃんと人間だと思ってるよ?でもあの笑顔は…」
「もう慣れるしかねえだろ」
「そんなの無理!」

元親くんは簡単に言うけれど、わたしにとっては死活問題なのだ。いきなり挨拶されて振り返った瞬間、あの笑顔が目の前に。すぐにその場から逃げたしたくなる衝動を抑えながら、たどたどしく返事をするのは毎度のことである。

「でもね、元親くん」
「あ?」
「徳川くんを見ると逃げ出したくなるけど、同時に胸が苦しくなって顔が赤くなるの」
「…」
「これって何かの病気なのかな」

元親くんは腕を組んで天井を見上げた。「あー」とか「なるほどなあ」とか一人でぶつぶつと何か呟いている。

「お前よー、それって…」
「それって?」
「いや、やっぱり何でもねえ」
「もったいぶらないで教えてよ!」
「お前もそのうちわかるって」

わたしの頭をわしゃわしゃと撫でながら優しい眼差しを向ける元親くんは、なんだかお母さんみたいだった。さっきの言葉の続きがめちゃくちゃ気になるけど…まあいいか。

「はは、相変わらず仲がいいな!」

急に後ろから明るい声が聞こえてきた。どきり、と心臓が震える。振り向くとそこには噂の人。今日も笑顔が眩しいです。

「おう、家康」
「周りから見ると兄弟にしか見えないぞ」
「まあな!幼馴染だし」

わたしの焦る気持ちを知らず、楽しそうに話している二人を見ていると元親くんが「あ、そうだ」と何かを思い出したかのように呟いた。

「どうしたんだ?」
「こいつな、お前を見ると胸が苦しくなって顔が真っ赤になるんだとよ」

「な?」とにやにやしながら元親くんはわたしに話を振った。
…ちょっと待って、元親くん。今なんて言った?言っちゃいけないことを家康くんに話してたよね?

「うわああ元親くんなんで話しちゃうの!」
「誰にも言うなって言われてねえし、事実なんだろ?」
「いや、そうだけど、でも…!」

ちらりと徳川くんを見てみるとそこにはいつもの眩しい笑顔はなく、手で口元を覆っていて表情がはっきりと見えなかった。耳まで林檎のように赤くなっている。こんな徳川くん見たことがない。

「あの、大丈夫?」
「…大丈夫だ!気にしないでくれ!」
「本当に大丈夫なのかー?徳川くんよー?」

徳川くんの背中をばんばん叩きながら心配をする元親くんはずっとにやにやしていて正直気持ち悪い。というか心配してないよね、絶対。

「元親…お前ってやつは…!」
「おっと、俺は悪くないぜ?」

わあわあと言い合いを始めた二人を放って、わたしは席に着いた。徳川くんはなんで顔を赤くしたんだろう。風邪ひいてるとか?でも、頭痛とか咳とかの症状はないみたいだし。あれはなんだったんだろう。
でもまあ、今日は徳川くんを見ても普通でいられたし…むしろ胸がぽかぽか暖かくて心地いい。緩くなる頬を両手で押さえながら二人のやり取りを眺めた。