白石は委員会、健ちゃんは用事があって早退ということで今日は代わりにマネージャーのわたしが部室を開けることになった。
なんか一番乗りっていいよね。少し優越感に浸れるし。ずっと一人ぼっちなのは嫌だけど。なんて考えながらドアを開けると、もじゃもじゃ頭と大きな背中が視界に入った。

「千歳!あんたどうやって入ったの!?」
「どうやってって…窓が開いてたけん」

だからってあんなところから入ってきたのもどうかと思う。そんなにテニスしたかったのか。

「なるほど…にしても千歳が1番乗りだなんて珍しいね」
「今日は寄り道したい気分じゃなかったと」
「明日は大雪でも降るんじゃ…」
「はは、照れるばい」
「いや褒めてないから」
「あ、」

ふと何か思い出したようで、鞄を漁る千歳。するとポッキーを咥えてこちらを向いた。

「んー」
「…何それ」
「何って…ポッキーゲームたい」
「へえ。誰とするの?」
「もちろんなまえと!」

千歳は瞳をキラッキラ輝かせながら満面の笑みで答えた。相変わらずのフリーダムっぷり。まぁ、千歳らしいっちゃあ千歳らしい。

「えー、嫌だ」
「冷たかー…」

そう言っていじけながら、ぽりぽりとポッキーを食べる千歳はなんだか小動物のようだ。とてつもなく撫でたい衝動に駆られる。我慢しろわたし。今はそんな時じゃない。そう自分に言い聞かせてぐっと堪えた。

「でも、なんでわたしなのさ。他の子にでも頼めばいいのに」
「…なまえじゃなきゃいかん」

急に真剣な顔つきになった千歳から、ただならぬ緊張感を感じ取ったわたしは、ごくりと唾を飲み込んだ。

「好いとうよ」
「…はい?」
「だーから!なまえが好き言うとるち、わからんと?」
「えっ、なんでこのタイミング?」
「タイミングなんて関係なか」

告白ってこんなにあっさりしてるものなのだろうか。もっとムードとか色々と考えるものがあってもいいんじゃない?少女漫画の読みすぎなのかもしれないけど!

「本気なの、それ」
「…疑ってると?」
「だって急すぎるし…」
「じゃあ証明するったい」

何をするかと思えば、千歳はにこにこしながらポッキーを一本取り出してにじり寄ってきた。

「ち、千歳…?」

どうやら千歳の気持ちは本物らしい。笑ってるけど、目がギラギラしてる。

「ちょっと落ち着こうか、ね?」
「俺は落ち着いてるとよ?」

「いやいや目がギラギラしてるんですけど」
「そんなことないっちゃ」

じりじりと近づいてくる千歳との距離。いつの間にかポッキーを咥えてるし。
前にはポッキー(千歳)、後ろは壁という危機的状況に陥ってしまった。
誰でもいいからわたしを助けてくれ!強く願いながらぎゅっと目を瞑ったその瞬間。

「お、お前ら…何しとるん!」

やけに上ずってる声が部室内に響いた。すぐさま入り口を見ると声の主は謙也だった。顔を真っ赤にして、口を金魚みたいにぱくぱくさせている。

「謙也あああ!助けてええ!」
「なんやこの状況…」
「千歳に襲われかけた!」
「んなもん見ればわかるわドアホォ!」

隙を見つけて急いで謙也の後ろに隠れる。いつもヘタレな謙也が今日はかっこよく見えるよ!

「やれやれ失敗たい。なかなか手ごわいっちゃねえ」

くつくつと笑いながらこちらを様子を伺う千歳に恐怖心を抱いた。可愛い顔してこんなことしようとするなんて…恐ろしいやつ!

「ばってん、」
「…なに」
「お前んこつ好いとう。本気たい」
「なっ…!」
「返事、待ってると」

満足げな表情で千歳はそう言うとわたし達の横をすりぬけて部室から出ていってしまった。なんなのあの余裕は!

「大丈夫か?」
「あー、うん」
「ったく…いちゃつくなら部室の外でやりや?」

にやつく謙也の頭にチョップした。「いてっ!何すんねん!」と悲鳴が聞こえてきたけど、そこは無視。
きっと白石が来たら部長命令として千歳捜索を命じられるのだと思う頭が痛い。誰か私の代わりに行ってくれないかな、と思いながら千歳の置いていったポッキーに手を延ばした。