がさりとコンビニの袋を揺らしながら帰路につく。一日中パソコンとにらめっこをしていたせいで、肩凝りはひどいし、目もいつも以上に疲れた。あー、整体に行きたい。

住宅街の中で、車が一台ぎりぎりで通れるくらいの細い道路に入る。ふと足を止めて空を見上げれば、ぼんやりと雲のかかった満月が私を照らしていた。消えた足音の代わりにどこかの家のテレビから流れる笑い声や、家族の話し声が微かに聞こえてくる。

実家に住んでいた頃が懐かしい。一人暮らしを始めてから何年経ったことやら。色々と不安や焦りで頭がいっぱいだった私に、あっけらかんとした笑顔で「あんたはどこでも生きていけそうだし、大丈夫よ」と言った母と、それを聞いて力強く頷いた父の姿は未だに忘れられない。
実際は母の愛という名のスパルタ指導のおかげで、なんとか自炊はできてるし、お隣さんはとてもいい人で本当に運がよかったなと思った。ただ、今でも寂しいと思う時はあるけれど。

そんなことを思い返しつつ歩いていたら、アパートに着いてしまった。静かに階段を登ってバッグから取り出した鍵を回し、ドアを開けて我が家に帰りを告げる。それに答えるようにカチカチと壁掛け時計の秒針が私を出迎えた。むくんだ足をパンプスから解放してリビングへ。

「…は?」

パチリ。電気を点けて真っ先に私の視界に入ってきたのは、倒れている、不思議な格好をした大柄の外国人の男。俊敏かつ冷静にリビングから出て、疲れ切った脳をフル回転させる。

…ここって私の家だよね?ちゃんと持ってる鍵で開いたし、玄関に友人から貰った猫の置物がある。正真正銘、私の家だ。戸締りはしっかり確認して家を出た。しつこいぐらいに確認したのではっきりと覚えている。他の部屋を見ても荒らされた形跡はどこにも見当たらない。朝、出かける前の状態そのものだ。私が留守にしている間に一体何が起こったのだろう。

リビングに戻って男を見ると、先程の状態のまま仰向けに倒れていた。まさか死んでるとか、ないよね。一人暮らしの女性の家に見知らぬ外国人男性の死体が転がっていた、なんてニュースになるのは勘弁して頂きたい。

恐る恐る男に近づき、手首に触れて脈を確認する。よかった、生きてる。でも生きているかと思えないくらい冷たい。

チラリと時計を見れば短針は九時を指していた。男が目を覚ます気配は全くない。とりあえず警察に電話…いやでもここは救急車を先に呼んだ方がいいのかもしれない。外傷は見当たらないけど異常に体温が低いし、危ない状態なのかも。コンビニで買った物をテーブルに置き、バッグから携帯を取り出す。

「ここは、何処だ?」

背中にぞくりと、何かが走った。