Mole's Lullaby
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子鬼と孤狐



魁が風邪を引いた。
いつも喧嘩をしている魃でさえ、魁の体調を気にする程の酷い風邪だ。
魃はいつも魁を側に置いていた。それが失うかもしれない恐怖があったのかもしれない。魁を知る鬼の誰もが、魁の身を案じていた。

ーーもしも、魁のあれが風邪ではなく、身体の限界だったとしたら如何しよう。

そんな事を考えていた。

子鬼である魑も、その中の一人だった。
何だかんだ文句を言いながらも、魁は魑と遊び、過度な子ども扱いをする事なく対等に付き合ってくれていた。そこが魑は好きだった。

魑は一人、鬼の里から出た。

神を祀った社を訪れる為だ。

彼ら鬼は、世間から忌み避けられた存在だ。
本来、この世に居てはならぬ者たちである。重い罪を背負っている鬼は多く居た。
魑もそれに漏れない。

そんな鬼は、神でさえ汚らわしい存在として扱う。その為、本来神が居るような場所には、近寄ってはならないと鬼組の中で決められている。

それを破ってでも、魑は訪れたかったのは、力ある者に縋りたかったからだ。

少し歩いていると、獣道がある事に気がついた。
普段は街にまっすぐ降りる為全く気にならないそこが、その日に限って妙に気にかかった。
その奥の何かに誘われるように、魑はその獣道を歩き出した。

***

「……う?」

ついた先は小さな社だった。
決して大きなものではない。そして雨風に晒されたせいか塗装も所々剥げていた。
それでも神聖な空気を感じさせる佇まいだった。

魑は思わぬ所で見つけたそれを、頬を紅潮させて見つめた。そして、吸い込まれるように社へ向かうと、手を合わせて祈った。

(ーー神様、サキを助けて。死なせないで……)

何度も何度も祈った。

「……鬼の子が神に祈る等、妙な事もあるものじゃの」

男の声が風に乗って魑の耳に届いた。声のする方へ顔を上げると、社の上に悠然と座る男が居た。
金糸のような長い髪をだらりと流し、ソレと同色の獣の耳を頭上に生やした男だ。空色の着物に白い布を羽織り、魑を見下ろしていた。

ーーここはお前が来ていい場所ではない。帰れ。

魑が神社に参拝するのは初めてではない。幼い頃、まだ鬼が目覚めていない頃に一度だけ訪れた。その時、狛犬に言われた言葉が蘇り、少し足が竦む。

ーー汚らわしい鬼の子め。

「ーー警戒せずとも追い出したりせぬわ。まぁ、本来鬼が参拝にくるなど有り得ぬが……こちらとしては参拝客も久しぶりよ。……ふむ、少し話をせぬか、鬼の子よ。そちの言うそのサキとやらについて聞こうではないか」

男は地に降り立ち、魑に手を差し伸べた。


2012.12.16


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