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うわ、有り得ない。という言葉をなんとも苦々しげに吐き捨てたそいつはおおよそ同情やなんかをしているようには欠片も見えなかった。何故なら宝石みたいにきらきらとした真っ黒の瞳が殺気で澱んでいるからである。待てよ俺は悪くないぞ、悪いのは海賊王になるとかなんとかほざき始めたあの団長様だ。夜王と殺り合ったが為の負傷だ、ちっとは同情とかしてくれ。オジサン泣きそう。お蔭で云業は天国だか地獄だかに召されてしまったわけだし、詰まり。 「…傘を構えるな」 と、いうことが言いたい。 「いやアンタには死んでもらう」 なんだその映画から抜粋したようなセリフ。という言葉は間髪容れずに乱射された傘の銃声によって飲み込んでしまった。やべ、まじだこいつ。 「オイオイ疲れてんだよ、後にしてくれや」 「あたしが安らかに眠らせてやる」 びゅん。その小柄な身丈には似つかわしくない大柄な唐傘をそんな力があるとは思えない細腕で振り回す。危うく顔面を潰される前に後退って避けたものの唐傘に巻き込まれた風がかなりの風圧となってざわざわと前髪を揺らした。それだけでふらふらと体が揺らぐ俺はまさしく疲労困憊というやつなのである。実は立っているのも辛い。ちょ、まじで勘弁してくれ。 「疲れてる、っつってんだろうが!」 「むぎゃあああ!」 むしゃくしゃしているせいかどうも動きの荒いなまえの隙を付いて唐傘をひっ掴む。そのまま引ったくるために此方へ引き寄せるとよほど力強く柄を握っていたのか唐傘ごとなまえがくっ付いてきて少し笑えた。とりあえずその細っこい手が折れない程度に軽くチョップして今し方俺の顔面をぶっ潰そうとしていた凶器をはたき落としてやる。「いだあああ!」…やべ、力込め過ぎたかこれ。 「いってェエエエっ阿伏兎うぜェエエエっ」 「うぜーのはお前だ」 「いや阿伏兎だ。KY」 「それなりに空気は読めてるつもりなんだがなァ」 「ちげーよ(K)呼吸(Y)やめろ」 「ひでえ!」 何が気に入らないのか相変わらず不機嫌そうに真っ黒な瞳を殺気で淀ませているなまえにほとほと困り果てる。そんなに怒らせるようなことを俺はしたのだろうか。顔面を潰されかけるようなことを。まったくもって覚えがない。あれ、まじで何を怒ってんだ。 「お嬢さーん、何怒ってんだー」 団長と云業と三人で地球行ったから?吉原に入り浸ってたから?それとも帰りが遅くなったからか?
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