何を聞いても違う違うの繰り返しで一向に答えが出てこない。違う、そうじゃない。あたしは大人で、だから阿伏兎が吉原でしっぽりしけこんでくるのなんて別に気にしないわけで、…あれ、今しっぽりしけこんでっつったか?
「結局のところ何が言いたいんだお前さんは」
「だからさァ、」
 めら。と。殺気で淀む瞳の奥に炎が燃えたぎったような気がした。
「なんで地球での落とし物が左腕なんだバカヤロー。どこのどいつだあたしに左薬指の枷を買ってきたのは」
「あ゙っ」
「嫌がらせだか虫除けだか知らないけどいつこの指輪が本物になるのかなーとか期待しちゃったりなんかしちゃった自分がまじではずい。ちょうはずい。もう記憶から抹消したい。阿伏兎ごと抹消したい。てことでK(呼吸)Y(やめろ)」
 がちゃこん。と何時の間にか持ち主の手元に帰還していたなまえの唐傘が物騒な音をたてる。さっ、と色々な意味で体中の血がどこか奥の方へと引っ込んでいったような気がした。いつまで煮え切らないままなわけ、早くしないと食べちゃうぞ。にこにこ笑う団長のその言葉が冗談に聞こえなさすぎて焦って指輪を買ってしまった自分を本気で殴りたくなる。いくらなんでも団長にからかわれたからって薬指に指輪だとか俺も軽率すぎるし意味深すぎるわけでしかも左手ってどうなんだろうか。正直心理状態が不安定すぎて指輪をあげた日のことをよく覚えてはいなかったりするのだが、それを言ったらただでさえぶち切れているなまえに早急に殺されそうなので言わない。いや喜んでくれていたみたいなので後悔はしていないけれども。じゃなくて。
「悪かったって、無くなっちまったもんは仕方ねえだろ」
「だってだってだってだってあたしも女の子なんだからァアアア!!」
「あ?おお」
「け、け、結婚ぐらいしたい、!」
「…!」
 急に赤くなってそんなことを言うものだから柄にもなく照れてしまってどうしようもなく愛おしくて思わずなまえを抱き寄せてしまった。オジサンをときめかせないで下さい。



左手の行方を探す




 同じ指輪が付けたかった、と相変わらずの赤い顔でなまえは言う。俺はというと彼女を抱き締められないことに今更気付いて地球に忘れてきた左腕をやっと恋しく惜しく思ったところだった。噫もう生えてこねえかな、腕。


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