目がばっちり冴えてしまってもうなんかまったくもって眠れるような気がしない。少しでも眠らないと明日がきつくなることは解っているのに自らカフェインを排出しているのではないかという程目がぎらついてしまって目を閉じても睡魔はやって来なかった。そもそも明日なんて来ないような気がする。おんなじことの繰り返し。刀を握って斬って斬って1日が終わって気が付けばほら、もう今日になっている。眠る頃には明日なんて消え去ってまた今日を繰り返すだけなんだ。明日ってどこですか。
「なまえ、まだ起きとるんが?」
「脳が勝手にカフェインを排出するんだよね、困っちゃうよね」
「意味が解らんぜよー」
 アッハッハ、と清々しく笑いながら辰馬があたしの隣に腰を下ろす。こいつは実に楽天家だと思う、頭はきっと空っぽなのにそれでもあたしと違って何かに躓くことはないのだ。何も考えたくないから何も考えずに斬ることはできる。けれども気が付けば何かに躓いてすっころんでしまってなかなかどうして立ち上がれない。いつもいつもその繰り返し(果たしてこれでいいのか、だとか)。
 ぐが、と如何にも呑気な銀時のいびきが聞こえた。
「さっきまで騒いでたくせに平和かこいつら」
「どうせ飲みたかっただけじゃき、送別会なんて形だけじゃー」
 そう言う辰馬にそれもそうだと頷きながら夜空を見上げるその横顔を見やった。黙っていればちゃんと男前だというのにこいつは黙るという芸が酷く苦手らしい。
 辰馬はこの馬鹿で負け戦でしかない戦いから抜けるのだそうだ。刀を捨てて空に行くのだそうだ。星を釣り上げる、という話は途方もなくて壮大で今一あたしには解らないが、それでも辰馬が本気で空へ行こうとしているのはこのあたしにもちゃんと解る。だって、目が。空を見上げる目。が。
「お、流れ星」
「まじでか!どこ、」
「もう消えたき。目とろじゃのー」
 アッハッハ、と辰馬が楽しそうに笑ってばしばしあたしの背中をぶったたく。目とろ、の意味はよく解らないけれどもなんだかニュアンスで既に腹が立つのは何故だろう。笑うことで僅かに細められたその瞳は大部分が隠れているものの相変わらず星空を中に閉じ込めたのではないかという程きらきらしていた。こいつはいつもあたしには一生できそうもない表情を作って見せる。それは少し羨ましいし、切ない。笑いながら時折泣いているように見えるのは気のせいか。
「…なァ、なまえ」


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