おかーさんが死んだ。おとーさんが病気で死んでからたった一人であたしを育ててくれた頑張り屋さんなおかーさんだった。おかーさんつらい?辛くないよ、お母さんは強いんだから。おかーさんつかれた?疲れてないよ、お母さんは大丈夫。

「…おかーさんは、大丈、ぶ」
「なまえちゃん?」
 とん、と軽く肩を叩かれて漂っていた夢想から急浮上する。噫、近藤さん。と呟かれた未だ若干のあどけなさを残す声は酷く掠れていて悲しくなった。疲れた顔をしながらをそれでも刀を手放す様子のないなまえに近藤の表情が曇る。すみません寝てしまってと笑うなまえの顔は可愛らしいのに目の下の濃い隈がそれをすべてぶち壊していた。なァなまえちゃん。と。近藤が悲しそうに名前を呼ぶ。今日はもう休め、十分だから。けれどもなまえは決して首を縦には振らないのだ。このやり取りを今までに何度したのだろうという疑問が湧き上がるほど幾度も繰り返した問答だった。今日も例によってなまえが近藤の期待に応えるような様子は皆無。
「大丈夫です、強いですから」
 問題ありません。
 ちりり、と胸の焼ける感覚に再び近藤の表情が曇る。その問題ないという言葉は一体いくつの文字を言葉を犠牲にして成り立っているのですか。履き違えた強いという言葉も大丈夫という言葉もその意味を込めるために一体どれだけの意味を殺したのですか。ぐるぐると言葉に出来ない思いが近藤の脳内を巡る。日に日に無茶をして怪我を増やすなまえを見ていると入隊させたのは失敗だったのかも知れないと思った。けれど真選組にとって重要な戦力であるというのも事実なわけで、まだ入隊して1ヶ月だというのに平隊士から隊長補佐にまで成り上がったその実力は称賛に値する、…けれど。
「わたしは今日も刀を振らねばならないのです」
 少女は言う。事務的に。その言葉に意味を、奏でながら。
 精神力も技量も全くもって申し分ない、けれど如何せんなまえは走ることしか知らないのだ。それが如何に自分の首を絞めようとも空気を奪おうとも転がるように先へ先へと。
「もういいんじゃないか、」
 立ち止まっても。
「まだですよ。まだまだ先は見えません」
 そろそろ出発するぞ、と土方がなまえを呼ぶ。それでは行って参りますと土方の肩ほどもない身長のなまえは座り込んでいた縁側から腰を上げてにこりと笑った。


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