ただいま戻りました、となまえが土方や隊士たちと任務から戻ったのはあれから半日も経ってすっかり日が暮れた頃だった。数日前からの計画だった今回の切り込みは比較的小規模だったことや山崎がせっせこと情報収集に勤しんでくれたお陰で無事に終わり、隊士たちも負傷しつつ任務に出た全員が屯所に帰還。屯所で帰りを待っていた近藤としては隊士たち全員が帰ってきたことも心底嬉しく攘夷浪士の企みを未然に防げたというのも非常に喜ばしいことである。のだが。働いてくれた隊士たちを労わねば。とも思うが。正直、それどころではないのだ。人一倍ぼろぼろななまえを見てしまった今となっては。
「いやですね近藤さん全て掠り傷ですよ、問題ありません」
「掠ってないからァアア!!ざっくりいかれてるからァアア!!」
 えへへ、となんでもないように笑うなまえに思わず近藤が声を荒げる。左頬には痛々しく血の滲むガーゼがぺたりと貼られて頭には包帯がぐるぐる巻き、所々派手に裂けた隊服からもちらちらと包帯が見え隠れしていて解ってはいるがとても掠り傷には見えない。土方が言うには攘夷浪士のほぼ半分をなまえが斬ったらしい。隊士の負担を減らすために、それが隊長補佐の務めなのだと言って。また無茶をしたらしいじゃないか、と近藤が問い詰めるとなまえは困ったように笑った。
「わたしはどうなってもいいんです、"みんなが生きていてくれれば"」
 ずきり、と。心臓が軋む。その言葉の意味が痛いほど解ってしまって悲しくなってしまって息が詰まった。なまえの母親は死んだ。攘夷浪士の抗争に巻き込まれて。だからこれ以上自分のような人を増やしたくはないのだと、入隊して間もないなまえは近藤に言った。
「…兎に角明日は休め、その傷じゃあ辛いだろう」
「いえ、問題ありません。わたしをどうか働かせて下さい」
 少女は言う。事務的に。無口に意味を、重ねながら。走るために地面を踏みしめていた足は既に絡まって坂を転がり落ちているだけだというのになまえはそれをやめようとはしないのだ。どれだけ自らの首を絞めようと体を傷めようと。
「もういいだろう、休んでも」
「あともう少しだけ。何か見えるような気がするのです」
 それはなまえにとってある種の強迫観念ではないだろうかと思い付いたが、けれど近藤にはそれを払拭してやれるだけの言葉の組み合わせを残念ながら持ち合わせていなかった。


 








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