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ああ、近藤さん。という至極聞き慣れた声が耳に響く。昨日の攘夷浪士への切り込みで体は疲れ切っていたはずだった。その小さな身体で誰よりも多くの人間を斬ったのだ。走って走って、転がるように走って走って。わたしは今日も刀を振らねばならないのです。強い眼だった。だからなまえならまだ大丈夫だと思い込んでしまったのかも知れない。見回りくらいなら、その強い眼に応えてやらせてやっても大丈夫だろうと高を括っていたのかも知れない。たかが見回りでも攘夷浪士と鉢合わせする可能性だってゼロではないのだ。…今回のように。 「手当てしてもらいました」 頬と同じようにガーゼで覆われて片方しかない眼がなんでもないように近藤を見上げる。攘夷浪士と鉢合わせしたなまえは当然斬り合いになり、その場にいた全員を斬りつつも人数の差と疲れ切って動きが鈍くなっていたことで左目を負傷。傷は浅いものの出血がなかなか止まらず貼り付けられたばかりのガーゼは既に赤く変色していた。頭にぐるぐる巻かれた包帯と左側の顔をすっかり隠してしまっているガーゼが酷く痛々しい。それでも刀を手放そうとしないなまえにそれでも転がろうとするなまえに再びずきりと心臓が痛んだ。 「こ、近藤さん?」 驚いたようななまえの声を耳元で聞きながらその身体を抱き締める腕に力を込める。細い身体だった。華奢な身体だった。こんな身体で人一倍働いていた。母を守れなかった自分を責めて、誰かを守らなければという強迫観念に追われながら。 「なまえちゃん、君はよく頑張った。よく頑張ったよ」 そうでしょうか、となまえがくぐもった声で呟く。ああ、頑張ったよ。もう十分だ。それに応えて言いながらよしよしとなまえの頭を近藤の大きな手が優しく撫でて。 「…もう、いいんでしょうか」 「もういいぞ、そろそろ君も疲れたろう」 ぽろろ、となまえの真っ黒な眼から涙がひとつ零れ落ちた。
ローリンガール
「だから今日はもう寝なさい。なまえちゃん寝不足だろう、ちゃんと知ってるんだぞ」 「解りました。おやすみなさい」 「ここでェエエエ!!?」 息を止めるの、今。
‐‐‐‐‐ ローリンガール/現実逃避P
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