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「幸せをいらないといったら、妙に怒られた。退が悲しむ、って、おこ、られた。だから、あたし、あたしは」 ぽろぽろと涙が頬を転がって地面へと吸い込まれていく。ぐりぐりと目を乱暴に擦っても止まってはくれなかった。あたしは幸せにならなければいけない。退がこれから感じるはずだった幸せをあたしが消費しなければいけない。もうあたしにはそれしかしてやれないのだと妙に言われて、解ってはいたけれどやっぱり悲しくて悲しくて仕方がなかった。 時間は嫌いだ。なんでも和らげてしまう。なんでも変えてしまう。だから3Zのみんなが変わっていなくて、とっても嬉しかったんだ。
「退をここに、置いていく、」
ひぐ。と無様に喉が悲鳴をあげる。涙は溢れて溢れてあたしの中の水分をすべて使い果たしてしまうような気がした。 「退が好きだ。でもやつが、退じゃない違うやつが大きくなって退の場所を圧迫する。こんなことを言ったら退は悲しむかも知れない。怒るかも知れない。だけど、ごめんなさい」 嗚咽があたしの言葉を喰い殺す。声は震えてしまって頼りなく形になったそれはきちんと伝わっているのかも解らなかった。土方は何も言わない。言えないのかも知れなかった。 「あたしは、土方が好きだ」 「――んなっ!」 唐突に形を成した言葉に動揺したのか砂利を蹴散らしながら後ずさる音が一拍間を開けて響いた。土方はあたしが好きだと言った。退がいい。と断ると答えがなくても構わないと言った。でも、ずっと一緒にいてくれた。土方は優しい。退に似ている。でも女の子への触れ方が破壊的に下手くそだ。その癖女の子にはモテる。そこは似ていない。目も吊っているし、瞳孔も開いている。身長も高いし、ミントンはしない。退とは違う。全然違う。 「退じゃない、土方が好きだ」
サイハテに告げる
ずっと夢見ていた退との未来を、もう見ることができません。なかったことになんてできないので、きらきらの思い出にしか、できません。寂しいですが、名残惜しいですが。退とはここで、お別れです。 「…大好きだったぞばーか、」 ひっくひっくとしゃくりをあげるあたしに土方がぎこちなく歩き寄ってぐしゃぐしゃと大きな手で頭を撫でた。相変わらず力が強くて髪が引っかかって、痛い。 「へ、へたくそ」 「…ふん」 土方が不服そうに、それでも少しだけ優しく笑った。
‐‐‐‐‐ サイハテの、その先の続き 単品でも大丈夫に違いないと信じているわたしです
これでおわり
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