積み上げすぎて崩れてしまっているあんぱんタワーを丁寧に整えてその一番上にあたしが持ってきたあんぱんを乗せてやる。つぶあん。それからいつも身長を気にして飲んでいた牛乳を添えた。次生まれてくるときは長身でもいいけど、中身はやっぱり優しい退がいいな。
「掃除できないね」
「そうだな。まあまだきれいだし次来たときにでもするか」
 そう言って土方が花筒を萎れた花ごと引っこ抜く。どうやら花は妙や九兵衛あたりが持ってきてくれてそれきりらしい。みんな花なんて柄じゃないからきっと思い付かなかったんだろうなあなんて考えつつ役目を終えた花を持ってきていた新聞紙でくるんだ。それから花筒の中身を綺麗に水で流して新しい花を生ける。山崎にしては派手だな、と土方が笑った。
「退は地味だから、花くらい派手にしてあげる」
 花筒を元の位置に戻して線香と蝋燭をたてる。後ろに下がった土方から渡された百円ライターをつかって火をつけた。赤色の線香からは煙と一緒にばらの香りが広がった。手首にぶら下げている数珠を握り締める。一頻り立ち上る煙を眺めたあとでゆっくりと立ち上がった。
「…今日は、お別れを言いに。あと、伝えることがあって」
 ぎゅっと口を引き結ぶ。気を抜くと泣き出してしまいそうだった。退はこの言葉を聞いたら悲しむだろうか。怒るだろうか。軽く吐息してから大きく息を吸い込んで肺に酸素を満たした。数珠を握り締める手を更に握り込む。
「あたしは、退が好きだ」
 ありったけの思いを声に乗せた。
「退が大好きだ。退との未来を夢見てた。でも、もういない、から」
 ぐす、と鼻をすする。目の奥が熱くて仕方がなかった。視界が揺らいで仕方がなかった。
「叶わない、から。ずっと苦しくて、悲しかった。でもあたしが幸せになれないと、あんたが悲しむ、から」
 色々なことがあった。しばらくは苦しかった。でも楽しいこともあった。嬉しいことも、幸せなこともあった。だけどあたしはこのまま幸せになってもいいのかと思い付いて、そうしたらまた苦しくなった。悲しくなった。だって退の時間は進まないのだ。あの時から止まったまま、これ以上幸せになることも楽しいとか嬉しいとか、そういうきらきらした気持ちはもう感じられないのだ。


 




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