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「なんか飲むか?」 「うん。後でいいや」 よいしょ。と土方が支えてくれているバイクから下りる。長い間エンジンの振動に揺られながら同じ体勢をキープしていたあたしの足はすっかりそのまま凝り固まって酷く動かしにくかった。つい先程専門の小さな花屋さんに寄って買った花束をふたつ腕に抱く。肩にかけた鞄のあんぱんは潰れていないだろうかとかぼんやり考えながら邪魔にならないよう道路の脇にバイクを停める土方を眺めた。 「よし、行くか」 「うん」 二人で並んでコンクリートの階段を上る。足の長い土方はあたしに合わせてゆっくりと歩いてくれた。土方は少しだけ、似ている。 彼は底抜けに優しかった。あたしのわがままをなんでも聞いてくれた。うん、うん。そうだね。仕方ないなあ、今日だけだよ。ほんといろはわがままだなあ。そうやって言いながらもへらりと笑ったあの顔が忘れられない。 階段を上りきったところで一呼吸整える。それからすぐ隣にある小さな水道を利用して備え付けの桶に並々と水を汲んだ。最後に柄杓を突っ込むと土方が何も言わずにそれを持ってくれて、少し。泣きそうになった。 「ここに来るの、はじめてだ」 「あたしも。納骨は、どうしても参加できなかった」 「…そうか」 ざり。ざり。と砂利を踏む音が耳に響く。きょろきょろと土方が携帯を片手に目的の場所を探す。季節外れかも知れないけれど今日は。 「お、あった」 「う、わ、」 すげえな、と土方が呟く。その光景に再び泣きそうになってしまって思わず口を引き結んだ。ああもう、みんな眩しいんだよまったく。 今日は。お別れを言いに。あの時にきちんと言えなかったことを言いに来ました。それから、伝えることがあって。あれから何度も雨が降った。その度に退を思い出した。ついでに土方も思い出した。苦しかったし悲しかった。辛かったし、泣いてばかりだった。 「あんぱん多くねえか。…ミントン一式とか誰だよ」 「あー、ゴリくんだ」 退のお墓の周りには馬鹿みたいな量のあんぱんと最早罰が当たりそうなくらい大量な様々なお供え物が供えられていた。退が好きそうなものから持ってきた人が解るものまで種類が幅広い。とりあえずタコさんウインナーは神楽で隅に置かれている存在感の塊である重箱は妙に違いないと思った。 是非ともこの光景を、見せてやりたい。 「つぶあんとこしあんが半々くらいある」 「どっちが好みか解らなかったんで両方持ってきたんだろ」 「はは、馬鹿だなあみんな」
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