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色々なことがあった。しばらくは苦しかった。でも楽しいこともあった。嬉しいことも、幸せなこともあった。だけどあたしはこのまま幸せになってもいいのかと思い付いて、そうしたらまた苦しくなった。悲しくなった。だって彼の時間は進まないのだ。あの時から止まったまま、これ以上幸せになることも楽しいとか嬉しいとか、そういうきらきらした気持ちはもう感じられないのだ。ねえあたし、君との未来を夢見ていたよ。 ぶーん。とフルフェイスをかぶっているためにくぐもったエンジン音が少し遠くで響く。ばらばらと散らばるスカートを眺めながら服を間違えたかも知れないとか今更気付いてしまった。まあ後少しか、と思い直してバイクを走らせている彼の背中に身を任せる。彼の筋肉質な腹部に先程より強く腕を巻き付けるとぴくりと僅かに体が強ばったのが服越しに伝わった。 「な、なんだよ」 「何どもってんだ土方」 「うるせえ!」 「ていうかなんであたしはフルフェイスでお前は普通のヘルメットなんだ。邪魔くさいことこの上無いんですけど交換しろ」 「てめえ人の好意だろうが解れよ」 ぶーん。エンジンが鳴く。ごー、ごー、と風が鳴く。土方は優しい。優しくて、心配性だ。いつもあたしに気を遣ってくれる。大丈夫か?辛くねえか?怪我は?痛いか?それらがすっかり土方の口癖になって沖田にはここぞとばかりにからかわれている。それは銀魂高校を卒業した今も、変わらない。時折そういったメールが大量に送られてきてはあの頃と同じように青筋を浮かべながら沖田に電話をかけている土方をよく見かけた。みんなあの頃と変わらない。多少の成長はあるけれど根本的には変わらないのだ。卒業して一年が経った今もみんな図太くて厚かましくてきらきらしていて眩しい。そんなみんなが好きだ。…変わったこともある、けれど。 「…大丈夫か」 「え、う、ん」 唐突なその言葉に空気が喉でつっかえて変な音が漏れた。こちらを振り向かないヘルメットをかぶった頭を見上げる。あの日から思っていたけれど土方は。彼はあたしの脳内が見えているのではないだろうか。でなければそんな言葉が、そんな見透かしたような優しい言葉が容易にあたしに降るだろうか。あたしの表情すら確認もしていないというのに。 「俺はお前のことならだいたい解る。ナメんな」 「おい今のはストーカー発言として受けとるぞいいのか」 「…」 「是非とも否定してほしかったな」 土方はエスパーかも知れない。
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