ジムリーダーにだって休みはある。
祝日、いつものようにハチクさんの家に遊びに来ると、珍しくハチクさんは縁側でうたた寝をしていた。
玄関のところにはツンベアーが居るし、庭にはバニプッチやクマシュンが遊んでいるから泥棒なんて入りやしないとは思うけど、無防備過ぎやしないか。

「こんにちは」

ツンベアーに挨拶をすると、のそのそとツンベアーが動いて道を開けてくれる。
きっと、門番のつもりなんだろう。ツンベアーに警戒されないくらいは、この家に足繁く通っている。

春になり、雪が積もっていたセッカも緑が芽吹く。バニプッチ達が姿を消して、チョボマキ達が出てくる。春は、新しい出会いの季節であり、別れの季節だ。
庭に居るバニプッチやクマシュンは、ハチクさんによると住み着いてしまった野生のポケモン達で、ハチクさんのポケモンというわけではないらしい。

「ハチクさん」

呼んでも勿論返事はない。
いくら春になったとはいえ、着流し一枚で過ごすには肌寒い。このまま熟睡してしまえば、きっと風邪を引いてしまう。

「…そんな無防備に寝てたら、襲っちゃいますよー?」

きし、と縁側が音をたてる。
僕は座ると、ハチクさんうなじにキスをした。ちゅ、と音がして鬱血の痕が残る。

「ハチクさん」

カリ、とうなじに八重歯をたてるとハチクさんが微かに身動いだ。
もう少しそのままで居て欲しいという願いと、早く起きて欲しいという願いが入り交じる。

「……?」

うっすらとハチクさんが目を開けてこっちを向く。
あーあ、起きちゃった。もう少し悪戯をしたかったのに、少し残念。

「アーティ…?」
「はーい」
「何を…?」
「えーっとですねー…夜這い?」

ハチクさんのため息が聞こえる。

「なら、せめて…中へ入れ」
「ハチクさんがここで寝てたんじゃないですかー」
「まあ…な」
「でも、」

暖かな陽射しが射し込むこの縁側でうとうとする気持ちは、

「わからなくもないですけどねー」

するり、とマスクを外すと、眩しそうに蒼色の瞳が細められる。

「アーティ、」
「僕も寝ようかなあ」
「…何しに来たんだ…」
「だから、夜這いですよー」
「陽が明るいうちからか?」
「そうですー」

くすり、とハチクさんが苦笑を浮かべる。
僕はにこり、と笑って正面からキスをした。
ハチクさんは抵抗しないで目を閉じてくれる。

こんな何事もない日々がとても、幸せだ。




おわり