「バニラとー…あ、あとイチゴ味ってある?」
「はい!300円です。」
ありがとうございました、という声に見送られ、袋を持って店を後にした。
(…やっと買えた!)
と、浮かれた足取りでジムへの道を歩く。
(新発売のイチゴまで買えるなんて、ラッキーだったなー。)
現在ヒウンシティで大人気のヒウンアイス。
そのキュートな色とナイーブな味が人気を呼んでるとかで、買うには相当な根気が必要だ。
それをたまたま外出ついでに寄ったヒウンシティジムリーダー、アーティは運良く購入することができ、今に至る。
「ハハコモリ達も喜ぶだろーなー。」
自分の手持ちのポケモンのことを思い出し、自然に顔が綻ぶアーティ。
「わっ!?」
「うわっ。」
ろくに前を見ず、スキップで鼻歌まじりに歩いていると誰かとぶつかった。
人通りの多いヒウンストリートでは珍しいことではなく、アーティは即座に顔を上げた。
「あー、スミマセン。大丈夫ですか?」
「あぁ、こちらこそ…。」
ぴたり。
互いに目が合い、動きが止まった。
「…ハチクさん?」
「アーティ…。」
そこにいたのは、紛れもなくセッカシティのジムリーダーでありアーティの恋人、ハチクだった。
「やー、偶然ですね。あんなところで会うなんて。」
「そうだな。」
ヒウンストリートを抜けた先にある、セントラルエリアにあるベンチに腰掛け、会話を交わす。
「一体何をしにこんな場所まで?セッカから遠かったでしょ?」
「…少し野暮用でな。そういうお前は何をしていたんだ?」
「ボクは、アイス買ってちょうど買えるところだったんです。知ってるでしょ?ヒウンアイス。」
「アイス…。」
ぴくり、とハチクがアイスという単語に反応を示す。
(…あれ、まさかこの人。)
「ハチクさん、一つ食べます?」
恐る恐るアーティが口を開くと
「…貰おう。」
と、消え入りそうな声が聞こえてきた。
「まさか、ハチクさんが甘いものをお好きだなんて知りませんでしたよん。」
「…悪いか。」
「いえいえ、美味しいですもんね。ここの。」
ペロペロとアイスを舐めながら、他愛もない会話を交わす。
(ハハコモリ達には悪いけど、また買えばいっか。)
少し申し訳ない気持ちになりつつも、ハチクの方を見つめるアーティ。
「…あ、ハチクさん。口元ついてるよん。」
「む…、ここか?」
「違う違う、もーちょいこっち…」
ぺろりっ。
アーティがハチクの下唇辺りのアイスを舐めとる。
「……っ!?」
すると、ハチクの頬がみるみる朱に染まった。
「あ、アーティっ!!」
「だって、ハチクさん中々気付かないからさー。」
「ね?」、と悪戯っぽく笑うアーティに、ハチクは深いため息をついた。
「…痴れ者が。」
プイッ、と耳まで真っ赤ななって顔を背ける。
その気になれば蹴るなり殴るなり出来たのだが、それをしないのがハチクの優しさだというのをアーティは知っていた。
(…幸せって、こういうことを言うんだろうなー。)
自分の愛しい人が近くにいて、時間を共有している。
何だかそれが堪らなく嬉しくなり、アーティは静かに笑った。
「ハチクさん。ボク、幸せですよー。」
「…そうか。」
フ、とハチクがアーティに微笑み返す。
(あ、ハチクさんも幸せなんだ。)
昼近くにもなり、段々周囲の人々は喫茶店やらレストランへと入り始めた。
二人しかいないその空間で、アーティとハチクは互いの存在を確かめあうように、微笑んだ。
(…ごめんって、次は買ってくるからさー。)(ハハァーン…。)(あうぅん…、そんなに怒らないでよん。)
ほのぼのアーハチを目指したら何か長くなったぞ…。
あのアイスが袋に入るかって?良いじゃない主人公とか直にカバンに入れてるし。