「アーティさん!これ…あたしの気持ちです!」
「良かったらこれ、貰ってください!!」
「あの……迷惑じゃなければ、これ………」

ご丁寧に可愛らしくラッピングされた小さく可愛らしい箱を渡す女の子達。

「…あー、うん、ありがとう。後で美味しく頂くよん。」

それらを両手いっぱいに抱え、女の子達からの気持ちに苦笑混じりでボクは笑顔を返す。
その様子にキャーッ、と沸き立つと女の子達は踵を返しきゃいきゃいとはしゃぎながら、ジムの前を離れメインストリートの方へと小走りで歩き始めた。

そう、本日2/14は女性達の一大イベントでもあるバレンタインデー。
この日は好意を寄せる異性にチョコレートを渡し思いを伝えると言う、何とも(一応、ボクだって人気あるし)ボクからしたら面倒くさいイベントだ。

「…ホント、毎年毎年飽きないよなぁ…。処理するこっちの身にもなって欲しいね…。」

はぁ、と溜め息をつき両手一杯のチョコをジムの中に控えていたポケモン達に渡し、「ボクのアトリエに宜しくね」と伝え、言われたとおりに頷くと多くのチョコを抱え歩き出したポケモン達の背中を見送る。
別に甘いものは嫌いでもないし、女性にモテて悪い気だってしない。(むしろボクだって健全な男だし、嬉しいぐらいだ)

でも、今年は違うのだ。
セッカシティのジムリーダーであり、ボクの大切な大切な恋人……ハチクさんと添い遂げてから初めてのバレンタイン。
正直あの子達には申し訳ないけど、今はハチクさん以外のチョコはどうでもいいんだよん。あぁ麗しのハチクさん…、アナタは一体どんなチョコをくれるんですか。もうボクは楽しみすぎて純情ハートが震えに震えているよん!

そんなことを考えながら浮き足立っていると

「………アーティ?」

不意に、後ろから声をかけられた。
…この、凛としていてよく通っている綺麗な声は…

「ハチクさぁんっ!!」

ああ、今まさにボクが考えていた人!
今日もハチクさんはいつもの着物に身を包んで(半分肌蹴けてるけど)颯爽とした麗しい佇まいで……とにかく今日も素敵だよハチクさん!!

「あの、あの、いつからいたんですか?ハチクさん」
「…む、あぁ……先程からずっといたんだが…どうもお前が若い女性達に囲まれていてな。邪魔してはいけないかな、と思って…。」

…ゲッ、見られてたのか…。
まあ、ハチクさんはこれぐらいで嫉妬するような器の狭い人じゃないから良いけど…。

「えぇ、さっきの子達はバレンタインってことでボクにチョコを届けに来てくれたんですよん。ジムに置いとくのは流石にアレなので、ハハコモリ達に頼んでアトリエに持って行って貰いましたがね。作業の合間にでもつまもうかなー、って。」
「ほう…。それはそれは、モテる奴は大変だな。」

くすり、と小さく笑うハチクさん。…あぁ、もうホントこの人はいちいち動作が麗しすぎる。

「……っと、ここに来た用件を忘れるところだったな。」

なんて、ボクがそんな一挙一動に見ほれているとハチクさんは思いついたように和服の袂をゴソゴソと漁り

「…ほら、アーティ。」
「……んぬぅん?」

ひょい、と軽く投げられたそれをキャッチする。
見るとそれはシンプルな水色の包装紙と青いリボンがかかっていて……って、もしかしてこれは…………!?

「あ、あの、ハチクさん、こ、これ、って?」

わかりきったことを尋ねるボクがハチクさんはおかしかったのか、フ、と口元を緩めて笑う。
すると少し恥ずかしそうに口を開き

「…先程お前が言っただろう?"今日はバレンタイン"と…。……ここからは言わせるな」

ふい、と顔を背けるハチクさん。
……ホンット、この人は…!

「……ありがとうございます、ハチクさん!あの、ホワイトデーにはちゃんと3倍で返しますッ!いやもう3倍じゃなくて30倍ぐらいで返しますから!」
「いや、別にそこまでして返してもらわなくていいが…。……まぁ、そこまで喜んでもらえたなら私も嬉しいよ。…ありがとう、アーティ」

そう言うとハチクさんは照れ臭そうにボクの頭に手を置いた。
………あぁ、バレンタインってホントに良い物だなぁ…。


そんな風にしてジムの前で幸せに浸るボクを、アトリエから戻ってきたハハコモリ達に呆れた目で見られてるのをボクは知る由も無かった。


(Happy Valentine!!)(アナタからの愛情、30倍で返します!)