「億泰くんのウソツキ〜〜!」
「だァッ!仕方ねェだろっ!まさか康一があんなトコにいると思わなかったんだよォ〜」

 人気の少なくなった明るい帰り道を、不満そうに口をとがらせた少女が歩いている。その後ろには、少しばつが悪そうな顔をした強面の少年が続く。
 まだ衣替えには早い季節だが、その日の気温は夏日と同じくらいに高かった。まだ付き合って日の浅い二人は、「恋人ができたらパフェが食べたい!」という少女のささやかな夢を叶えるためにカフェ・ドゥ・マゴを訪れた。
 当然のごとくカップルで賑わうカフェに億泰はさっそく怯んだのだが、そこは一度約束したことだと気を取り直した矢先。同じスタンド使いであり、自分より先に「彼女持ち」となった康一と由花子を見つけたのだった。

 ついにUターンして列から抜け出してしまった億泰を慌てて追いかけ、彼がもう戻る気は無さそうとあって、彼女はすっかり拗ねてしまっていた。
 女の子を恐がらせてしまうことはあっても、怒らせるという経験は殆ど無い億泰にとって、未知の出来事の渦中なのである。謝ればいいのか、機嫌をとればいいのか。このままではむっつりと黙り込んでしまいそうな億泰を振り返り、少女は小さく溜息をついた。

「……反省してる?」
「!お、おう」
「でも、戻るのはチョット恥ずかしいね。じゃあ、うーん……あっ!」

 再び爛々と輝きだした視線は、億泰が好んでよく訪れるアイスパーラーがあった。無論、そのことは彼女は知らない。店員がうっかり自分を常連だとバラしやしないだろうかと冷や冷やしていたが、そんな心配も無用で、無事アイスは二人分手の中にあった。


 夏日とはいえ、まだ4月。
 屋外で二人並んで食べるアイスは少しずつ体を冷やすはずだが、不思議と寒いとは思わなかった。意外と可愛いもの頼むんだね、と小さく笑った彼女が一口ストロベリーチョコチップを食べたり、あるいはバニラをもらったり。不満を唱えていた声はアイスクリームと一緒に溶けていったらしい。
 ホッとする反面、楽しそうな横顔を見ていると、友人と顔を合わせる気まずさなんかで引き返さずとも良かったかもしれないと後悔が募る。もっと笑顔にさせられたのかもしれないかと思うと、心の底から惜しいと思った。
 それも、口に出せはしない。

「あのねぇ」
「ンー?」
「わたし、別にパフェじゃなくって良かったのかも……あ、ほら、パフェって二人で食べたらラブラブ〜って感じがするじゃない?だから憧れだったんだけど、ううんと……」

 溶けかけのバニラアイスがコーンから少しだけ溢れる。微かに桃色になる顔色を見ると、緊張しているのかもしれない。照れている、とも見える。視線を宙にやってから、もう一度振り返った瞳は透き通って見えた。

「一緒に甘いもの食べて、分け合って、お喋りしたかった、だけなのかも………お、億泰くんとね。恋人が億泰くんだからじゃなくて、億泰くんが恋人だから」
「ソレって違うのかよォ?」
「もー、ちょっと違うの!」

 どうやら億泰に微妙な乙女心をを察する能力は無いらしい。元々期待してはいなかったが、結局口に出すのも恥ずかしくて少女はアイスを舐め取って唇を閉ざした。
 ウーン、と考え込みながら同じくアイスを食べていると、まるでその甘さにひらめいたかのように少女を見て。

「つまり、アレだろ。俺のことすげぇ好きだってことだろォ」
「!!」

 ぼぼっと一気に桃色が紅色に変わる。
 眉が吊り上ったのを見て、また怒らせたかと億泰は肩を揺らす。しかしそれも一瞬で、伏せられた睫毛が震えているのに気付いた瞬間にぽつりと耳を掠める、そうかも、という小さな声。

「へっ」
「なに、別にヘンじゃないでしょ、だって、だって………」
「いやっ!変じゃねェよ、俺の耳が変になっちまったのかと思ったぜ」
「そ、そうよね。だって、私たち……」

 恋人同士なんだもの。
 今度こそ消え入りそうな声に、少年は可愛い恋人を抱きしめるため、思わずアイスクリームを取り落とし道端に食わせてしまう。それに二人はもはや気付かなかった。恥ずかしさのあまり悲鳴を上げた少女の声に、アイスパーラーの店員が顔を出して呆れた顔をするまで、あと数秒。


 


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