手を繋ぐのはどうしてこんなにも特別な気持ちになるんだろう?
 心が温かい人は手が冷たい、なんて使い古された迷信を信じているわけではないけれど、いつも冷静沈着を気取っているフーゴの掌はいつも体温が高いのはおかしいと思う。可笑しいと思ったから素直に笑ったら、当の彼は宇宙人を見るような目でこちらを見た。口を開く。

「ねえねえ知ってる?女の子の間で話題なんだよあのお店、可愛いよね。入口からすっごく可愛いよ、メルヘンチックでねえ〜」
「そうだね」
「パンナコッタが美味しいんだって。あはっ!パンナコッタだって!あっははは!苺のやつあるかなー?」
「やめろよ、昔からさんざんからかわれて飽き飽きしてるんだから……」

 矢継ぎ早に出てくる言葉をあしらうのも慣れた手つきで、道から逸れようとする私の手を引く。パンナコッタが食べたいよ、と指先でだだをこねたら、熱い手が握り返してくれた。
 「呆れた」と「困った」が混じる、チャロアイトのマーブル模様がきれいな紫色の瞳。私にだけ向けられる特別な色。特別好き。何で誰かの特別がいいんだろう?

「お店の中見た?パンナコッタは売り切れだってさ」
「私、オレンジの目がよかったな」
「どうして?」
「だってフーゴと反対だよ。特別って感じ。紫でもおそろいでいいけど」

 次の角を曲がったらいつもの市場だ。一番安いのでいいから生クリームを買って帰ろう。くすんだ黄色のテントの果物屋さんで、季節外れだけど苺も買おうね。売ってないから一緒に作ろうよ。フーゴは返事の代わりに指を絡める。迷惑そうな顔をしながら、耳は塞がないところが好きだった。
 冷たい石畳はブーツの中の爪先を苛める。道行く人達は家に帰る途中でマフラーに顔を埋めている。寒そうで気の毒だけれど、これはあげられない。

「私のだからね」
「パンナコッタが?」
「パンナコッタ・フーゴ!」
「うぐッ!」

 噛み付くように鼻先にキスをしたら、頬が苺みたいに赤くなった。演技がかった仕草でよろめいて、肩にじゃれついて額を擦り付けるおなじみのポーズで、顔を隠して項垂れるブドンドカラーと桃色の耳たぶ。きっとピエモンテのリストランテより絶品に違いない。特製のフルーツソースをかけて、いただきますしたいわ。





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